66話 秘密がバレた 2
「うーん……半分合ってて半分違うかな」
そして彼は、どこからかあの木刀を取り出した。
「……!」
今……どこから出したんだろ?
「あ、驚いたかい? これも含めて今から説明するね」
彼は木刀を俺のよく見える位置で持ち直した。
「まず、俺は手に持てるものなら…そうだね、例えるなら異空間的な場所に保存できるんだ。こんな風にね」
そう言ってコウさんは木刀を、消したり出したりした。
俺の“収納部屋”に似た様なものか…?
「あれ、思ってたより驚かないんだね」
「……僕も似たような事が出来ます」
「あ、そうなんだ」
すると、コウさんは次の説明を始めた。
「倭国の人達の基本的な戦闘は“仙術”によるものでね。例えば…」
彼は持っている木刀へ視線を落とした。
そして、なにやらその手に力を込めているようだ。
「さっき戦った時も使ってたんだけど、こんなふうに、手に持ったものに“気”を送って硬化させたり出来るんだ」
「あ、その枝が硬かったのは……」
「そ、これのおかげ。あと、ついに枝って言ったね」
実際に枝を受け取り、両手で力一杯折ろうとしたが、ビクともしなかった。この細さの枝ではありえない硬さだ。
「す、凄いですね……仙術って」
「そうだね。他は一瞬で距離を詰める“縮地”とか、予備動作なしで力を出せる“発勁”とか」
どれも、ラノベでたまに見た単語だ。
「俺は周りと比べて“気”の扱いが上手かったみたいでね。教わり始めた頃から、色々出来たんだ。だから正直、言うほど修行とかしていないんだよね」
それを聞いて彼の強さに納得した。
あれだ、転生した瞬間にチート能力を手に入れたパターンだ。
しかし、新たな疑問も同時に生まれた。
「魔力が無いのに“仙術”を習得出来たんですか? あと、あの物を保存する能力は何ですか?」
俺の“収納魔法”は、その名の通り魔法だ。魔法には当然魔力がいる。
彼は、魔力が無いのに魔法と同じ芸当が出来るのか?
「“仙術”に魔力は必要ないよ。武術だからね。ただ、魔力の代わりに“気”が必要なんだ」
「……気?」
「そう、気。仙術には気が不可欠なんだ」
魔術で言う魔力的な物かな。
「……あれ? って事は保存する能力も仙術なんですか?」
「いや、違うよ。仙術でなければ魔法でもない。これに関しては、俺もよく分からない」
どうやら、物を保存する能力に関しては、彼もよく分かっていない様だ。
それに……あんなに強いのに魔力は無いって……俺も経験はないが、“魔力切れ”の心配も無いのか。
「倭国の人って基本、魔力を持たないからね。魔力を使わない戦いに特化したからこそ、こんなに強い武術が出来上がったんだと思うよ」
「そうなんですか……」
ここである事に気づく。
「あれ? でも、ミフネさんは魔術を使っていましたよね?」
倭国の人が魔力を持たないなら、彼女は何故魔術が使えたのだろうか。すると、コウさんの表情が少し寂しそうなものになった。
「あー……ミフネはね、かなり稀有な存在なんだ。まぁ、それが原因で俺達はこの国にいるんだけどね」
それが原因? 一体何が……。
「前にも言ったけど、倭国人は黒髪黒目が普通なんだ」
日本に似ているからもしやと思ったが、やはりその様だ。
「でもミフネは茶髪で赤い目をしている。あれは染めたわけでは無くて、生まれつきらしいんだ」
「そうなんですか……?」
「うん。なんだか、魔力の影響で髪色とか変わってしまうらしくてね。ほら、この国には黒髪黒目の人はいないだろ? きっと、そういう事なんだ」
この国に俺みたいな人がいないのは、そういう事だったのか……。
……ん? じゃあ俺は?
「それに、ミフネには『魔力』がある代わりに気を扱えなくてね。それが原因で、イジメを受けていたらしいんだ」
自分と違う者をイジメの標的にするのは、どこでも一緒か。
「それに、倭国には魔術を教えられる人がいなかったのも相まって、ミフネと俺とセオトで国を出ることになったんだ」
「……そうだったんですか」
なんだか、かなり壮絶な人生を送っていそうだ。
「まぁ、国を出ると言っても、追い出されたわけでは無いよ。だから、2度と戻らないわけでは無いし、そもそも提案してくれたのは祖父だから、なんの問題も無いんだけどね」
「どういう事ですか?」
「俺とミフネを育ててくれた人はね、有名な『刀匠』なんだ」
刀匠……って、確か刀を作る人の事だよね。
コウさんが持っているのも、見た感じは完全に日本刀だ。
「倭国って……本当に日本に似てるんですね」
彼の和服を眺めながら、そんな事を呟く。
「そうだね、かなり近いと思うよ。建物とか食文化とか、何から何まで和だしね」
「……いつか行ってみたいです」
別に日本の文化に思い入れは無いが、かつて住んでいた国とそっくりな国があるのならば行ってみたい。
そう思うと同時に、1つの疑問が頭によぎる。
「……あの、コウさん」
「ん? なんだい、改まって」
「ミフネさんから聞いたんですけど、コウさん達が騎士団長をしているのは、王様からの指名依頼なんですよね」
「ああ、聞いてたんだ。そうだね、指名依頼だ」
「……どうして、他の国の人が王様直々に依頼されたんですか?」
騎士団長、そしてハンターギルドの会長。この職業はこの国の中でとても重要なものだ。
その職業に他の国の人を、ましてや、王様が直々に依頼するものなのか? 信用とか色々な面で。
「あー……そうだね。普通は気になるよね」
「……聞いちゃダメでしたか?」
「いやいや、全然良いよ。というか、もう知ってるのかと思ってた」
あれ? もしかして、有名な事だった?
「何年か前に、この国で革命があった事は知ってる?」
「革命……あ、知ってます」
森でこの国について聞いた時、お母さんがそんな事を言っていた気がする。
「俺のパーティはその革命で……」
彼がそう言った時だった。
「コウ様。失礼します」
ノックに続いてドアが開き、従業員が1人入って来た。
「申し訳ありません。コウ様、急ぎの伝令が……」
「……なんだい?」
コウさんは立ち上がり、従業員へ駆け寄った。そして、従業員から何かを伝えられた彼の表情が変わった。
「な……それは本当か?」
「はい……」
「……わかった。すぐに行くと伝えてくれ」
従業員が部屋から出たのを確認すると、コウさんは俺の元に戻ってきた。
「カイト君、すまない。急用が出来てしまった」
「……分かりました」
彼はこの国の騎士団長だ。何があったかは知らないが、多忙なのは重々承知している。
正直、さっきの話の続きが気になるけど、仕方ない。
「そう言ってもらえて助かるよ。君の帰りの馬車はもう手配してある。この店の横の馬車乗り場に行ってくれ」
そう伝えるなり彼はドアへと走った。
よほど急がなければならない事のようだ。
「あ、また今度お互いに詳しく話そうね。じゃ、また」
「はい。またお願いします」
まだまだ聞きたいことがまだあったが、またの機会に聞けばいいか。




