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56話 初めての冒険 5


 鉄を破壊した音が鳴り響いた。

 その音の方向を向くと、ミウちゃんの前方の鉄格子が大きくひしゃげている。


「開きました。皆さん行きましょう」

「あ、ああ……」


 ミゼリアにはラングが手を貸している。


 俺は戦力になれるか分からないが……。


 鍵を投げ捨て、倒れている男の腰からナイフを取り彼女の後をついて行った。

 しかし、地上への階段を登るミウちゃんの足が止まる。


 階段を登りきった所に、盗賊達が待ち伏せしていたのだ。その全員の手に武器が握られている。


「道を開けて」


 彼女は臆する事なく、警告した。

 しかし、当然賊達はそれを聞き入れる事なく、口々に暴言を吐いている。


「やっちまえ!」


 その中の誰かがそう叫ぶと同時に、盗賊達が襲いかかって来た。


「はぁ……」


 それを見たミウちゃんはため息をつき、顎をクイッと動かす。



……………



 何が起きたのかわからなかった。突然の大きな揺れと爆音、強風が起きたのだ。

 頭をおさえる手を退け、恐る恐る目を開けた。


 そして……目の前の光景に愕然とした。


 先ほどまであった廊下、先ほどまでいた盗賊達の姿は無く、そこに見えたのは外。

 彼女が立っている位置から前方の建物の壁が、消し飛んでしまったのだ。


「な……なにこれ……」

「ミウちゃんが……やったのか?」


 後ろにいた2人の声が聞こえた。その声は少し恐怖心が混じってしまっているような気がする。

 その声が聞こえてしまったのか、ミウちゃんが寂しそうな表情に変わった気がした。


「……行きましょう」


 寂しそうな表情を崩し、無理に作ったような笑顔で彼女は俺達を外へ導いた。そして近くの茂みに、俺達を隠れさせる。


「……」

「……」


 沈黙が続いた。

 俺、ラング、ミゼリアの目線の先にはミウちゃん。

 しかし、彼女は視線を合わせようとしない。


「ミウちゃん……君は一体……」

「……っ」


 俺の質問に彼女はピクリと反応する。

 俺達は彼女が精霊様であると、昨日の夜に仮説を出した。

 それを出来る限り、悟られないよう気をつけていたが、あれ程の力を見せつけられたからには聞かずにはいられなかった。


「……」


 悩んでいる様子だ。


「黙ってて……ごめんなさい……」


 彼女はこちらと目を合わせないまま、そう呟いた。

 

 やはり、彼女は普通の人間では無いのか……。


「皆さんは……」


 不安そうな表情で彼女は口を開いた。


「皆さんは……僕が、怖いですか……?」


 視線を逸らしたままそう聞いてきた。3人で顔を見合わせる。

 怖い……正直に言えば、彼女がした事に対して恐怖心を抱いたのは事実だ。


 だが、それは俺達を守るためにした事、というのも事実。

 そしてなにより、今の彼女は俺達に恐怖の対象として見られる事を、恐れているように見える。


 その姿は“危険な存在”ではなくただの“不安を抱いている少女”。危険な雰囲気など感じない。


 なら、その不安を取り除いてあげたいと思うのが普通だ。


「大丈夫。怖いだなんて思わないよ」

「そうよ。怪我だって治してくれたし」

「そうだぞ。ミウちゃんのおかげで助かったんだからな」


 俺達は笑いながら答えた。

 その答えを聞き彼女は、 少しホッとしたような表情でそう呟く。


「そ、そうですか……」


 しかし、すぐに表情が強張った。何かを思い出したようだ。


「皆さん……は、ここにいてください。武器を、取り返してきます」


 立ち上がり、半壊した建物へ向かおうとした彼女を慌てて呼び止める。


「ちょっと待ってくれ! ここは逃げるべきだ!」


 すると、不思議そうな顔を向けられた。


「……武器、取り戻したくないんですか?」

「取り戻したいのは山々だけど……今は早くここから離れたほうがいい」


 すると彼女がにこりと笑った。


「安心してください。ここに盗賊は通しません……それに、ですね」


 今度は恐ろしく真剣な面持ちになった。


「あの魔杖は……僕にとって大切なものなんです」


 彼女は制止を聞かず、建物に歩き出す。

 しかし、何かを思い出したように立ち止まり振り返った。


「その間、皆さん……この人達の介抱をお願いします」


 彼女が右手を横に振ると、なんと背後に人が出現した。それも大勢だ。


 この人達……どこから!?


「同じ牢屋にいた人達……怪我はある程度、治しました。あと、お願いします」


 その人達の傷は牢屋で見たときの印象より明らかに良くなっている。

 これも彼女の力なのか……。


「……ああ、分かった。任せてくれ」

「ありがとうございます……行ってきます」

「気をつけて」

「はい。すぐ出てきます」


 笑顔で答え、彼女は建物の中へ向かった。

 しかし、彼女が建物内に入って数分、突然建物の真下に巨大な魔法陣が出現し、建物を炎で包み込んだ。


 いや、これは建物を炎が取り囲んでいるのか。


「ミウちゃん!?」


 とっさに立ち上がり彼女の名を叫ぶが、炎の中から返事が聞こえる事はなかった。




 ……この建物地味に広いな。にしても、俺とジーフさん達の装備はどこにあるんだ?


 俺は半壊した建物の中を歩き回っていた。途中で鉢合わせた何人かの賊を、適当な魔術でぶっ飛ばしながら。


 この建物はすでに炎で囲っておいた。だからジーフさん達のところへ盗賊が辿り着くことはないだろう。


 とあることが脳裏によぎる。


「……さっき、なんだかすごくイライラしたなぁ」


 ミゼリアさんが殴られた時。思い返せば、自分でも驚くほどの怒りを感じていた。いや、怒りは感じて当たり前なのだが、それでもだ。


 相手を手にかけることしか考えられないような気持ちに、身を任せて暴れたくなるような状態……。


「……ん?」


 なんか、最近もこんなことがあったような……?


 足を止め、ステータスウインドウを表示して見る。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 精神系スキルレベル


 精神安定 Lv4

 人恐怖症 Lv-

 恐怖耐性 Lv5

 狩猟本能 Lv2

 自制心  Lv1


ーーーーーーーーーーーーーーー


「あー……やっぱり……」


 以前、剣術試験で手に入れた“狩猟本能”のレベルが上がっている。さっきの気持ちはこれが原因だったんだ。

 しかし、それと同時に“自制心”というスキルも手に入れている。どうやら、これのおかげで理性を保てたようだ。


「うーん……スキルって、便利だったり不便だったり……」


 前にテイルと話したときにも思ったけど、スキルは必ずしもメリットがあるものとは限らない。

 人恐怖症だってそうだし、狩猟本能だってそうだ。多分、怒ってるときに狩猟本能が発動したら、相手を文字通り“狩りたい”衝動にかられるのかもしれない。


「はぁ……気をつけなくっちゃ……」


 このスキルの効果に呑まれれば、なにをしでかすか分からない。この事は常に心に留めておこうと思った。


「……」


 頬を叩き、頭の中を切り替える。今は、ここから早く脱出できるように、奪われた武器を探そう。


 しかし、先程から部屋を片っ端から見ているのだが、魔杖や武器はなかなか見つからない。

 どうしようかな……。


「あ、そうか。だったら直接聞けばいいのか」


 ちょうど出くわした盗賊の男に問いただす。


「奪った装備はどこにある?」

「あ? 誰が教え……」


 真横の壁を殴り、大穴を開けてみせた。


「そ、その角を曲がって3つ目のドアだ」


 よし、聞き出せた。

 その盗賊の男を殴り倒して、言われた方向へ進む。


 角から3つ目のドア……あ、ここだ。


 ノブに手をかけるが、鍵がかかっていたので蹴破った。部屋の中には色々な武器が雑に放り込まれている。

 その中にジーフさん達の装備もあった。


「これだ……あれ?」


 何故かその中に俺の魔杖だけが無い。

 他の武器に紛れているのかと思い、そこらの武器を収納してみたが、やはり俺の魔杖はない。


「……どこだ?」


 少なくともこの部屋には無いようだ。その部屋を出て1つ1つ別の部屋の扉を蹴破っていく。だが、魔杖は見つからない。


 次第に焦り始めた。


「……あ!」


 そんな中、ようやく俺の魔杖を見つけたのだが、1つ問題がある。

 その魔杖は眼帯をした男の手に握られていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ジーフさんたち、優しいですね、ほんとに。優しい人が好きなので、いつもあったかい気持ちになります。 狩猟本能、怖いです。でも、自制心を獲得したなら、少しは大丈夫そうですね。スキルは、メリットだ…
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