52話 初めての冒険 1
何かする事がないかと、オロオロしているとジーフさんに指示をされる。
「ミウちゃん。君は焚き木を集めてきてくれ」
「わ、分かりました」
ガサガサと木が生えている方へ進む。
「だけど……焚き木か。考えれば俺、使ったことないなぁ」
森での生活では、魔術で火がつけられる上にそのまま持続させて炎を維持できた。
それ故に、焚き木が必要なかったのだ。
「どんな木が良いんだろ……でもあまり時間もかけられないし……」
そこらじゅうの木の枝を、拾いまくれば良いのかな? でもそれだと時間がかかる。
「収納部屋に入れるにしてもなぁ……」
収納部屋を使うには、対象の場所を把握していなければならない。
見つけた枝を収納しても、それは探して拾うのと大して変わりがない。
「……まぁ良いや、あれで集めよう」
収納部屋からとある物を取り出し、そこら辺に適当にまいた。
まいたものはとある植物の種だ。それを自然魔法で急成長させる。
あっという間に、周囲にに数メートルの細いツタが数本生えた。そのツタはうねうねと動いている。
「焚き木になるような木の枝を集めて」
そう指示するとツタが次々と木の枝を集めてきた。
どういう仕組みかは知らないが、このツタは指示通りに動いてくれるのだ。森での生活でも、罠から物探しまで様々な用途に使っていた。
「よし。もう良いよ」
そう指示した時には、両手いっぱいになるくらいの焚き木が集まっていた。
またツタを成長させ、種を採取してみんなの元へ戻る。
「集めてきました」
「ああ、ありがとう。もうすぐ寝床が出来るから待っててくれ」
見ると人数分の即席の寝床がもうすぐ完成しようとしていた。
何かする事は無いかな? あ、そうだ。
ジーフさんが用意した鍋に水をはり、焚き木に火をつけた。
採ってきた野草で簡易スープを作る。
ただ、これだけでは信じられないくらい不味い。だから、バレないように自作調味料で味付けをしておいた。
「……ん?」
ふと、ある事に気がついた。
この場所、人が大勢いた形跡があるのだ。
足跡がちらほらあったり、よく見ると焚き火の形跡もある。
他の冒険者が以前にきたのかな? それにしては足跡の数が多い。
あと、所々足跡を消そうとしたように土が乱れていた。
なんで消そうとしたんだろ? 何か消さないといけない理由でもあったのかな?
……まあいいか。気にしても仕方がない。
その後は特に何も無く、スープを振舞い、褒められたりして就寝した。
……そういえば、お母さんがあの時言っていた『友達が出来るかもしれない』とは、パーティのことを言っていたのかもしれない。
出会ったばかりで友達と言っても良いのかは分からないが、今日はとても楽しかった。
自分の実力も上手く隠せたしな。
もしこのパーティの3人と友達になれたのなら、一緒に喫茶店に行ったりするのかなぁ……。
そんな事を考えながら眠った。
「……ミウちゃんはもう眠ったか?」
「ええ、眠ってたわ」
「よし。それじゃあ……」
ミウが寝息を立てている時、その横で3人の動く影があった。
ジーフ、ミゼリア、ラングの3人だ。
「ミウちゃんについてどう思う?」
その3人が、ミウ抜きで話をしている目的は1つ。彼女は何者か、についての議論をするためだ。
「まず、剣術試験で会長を倒したという白髪の少女の噂……もし本当なら、その少女はミウちゃんの事だと思う。他に何かあるか?」
ミゼリアが挙手をした。
「昼の戦闘の時、彼女は詠唱をしていたんだけど、タイミングがズレていたの」
「どういう事だ?」
「『詠唱を終える前』に魔術が発動したのよ。それって、彼女は詠唱を必要としないんじゃないかしら?」
詠唱とは、魔術を使用する際の発動条件の1つだ。
普通、詠唱を全て言い終わった瞬間に魔術は発動するもの。
しかし、彼女は詠唱の途中に魔術が発動していた。
それは、詠唱を『ただ言っているだけ』であり、必要としていない事を意味する。
「やっぱりそうだったのか……」
そう呟いたのはリーダーのジーフ。
「ジーフ、どう言う事?」
「ミウちゃんは今日、スープを作ってくれたよな?」
「ええ、あれは美味しかったわ」
するとジーフは口に片手を当てながら話した。
「俺は見たんだ。彼女は何もない所から水を出して、なにも道具を使わないで焚き木に火をつけていたんだ」
「……もしかして、魔術で?」
「確証は無い……もしそうだとしても、詠唱はしていなかった」
詠唱に関してはミゼリアの予想通りの可能性が出てきた。
「だけど……それなら、どうして詠唱が必要なふりをしているのかしら? 無詠唱なんて出来るなら、宮廷魔術師でもなんでもなれるのに」
「そうだな……なにか、理由があって隠してるのかもしれない」
しかし、魔術で鍋に水を張り焚き火に火をつけたミウは、それを隠すそぶりをしなかった。
おそらく、無意識それを行ったために“隠す”事を忘れていたのだろう。
ジーフはふと、先程から黙り込んでいるラングの事が気になった。
「ラング? どうしたんだよ」
「あ、ああ……すまん」
ラングはそう言い手を横に振ったが、表情は晴れない。
そして、ゆっくりとその重い口を開いた。
「俺さ、寝床を作ってる時、ミウちゃんが心配だって言って少し抜けただろ?」
彼女が焚き木を拾いに行った際、ラングは彼女の身を案じて後をつけていた。
「ああ、抜けたな」
「その時に見たんだ……彼女が地面に種みたいなのをまいたと思ったら……」
「……どうした?」
ラングの様子がおかしく、ジーフと同じように信じられないものを見たかのようだった。
「信じられないと思うけど……その種が一瞬で長いツタに成長したんだ。それで、ミウちゃんの『焚き木を集めて』って指示にしたがって、木の枝を集めていた」
「なっ!?」
「えっ!?」
“植物を自在に操っていた”。
そんな現実味のない話を聞き、ジーフとミゼリアは固まってしまう。
「う、嘘じゃないんだ! 本当に見たんだ」
「……」
「……ねぇ……2人とも」
考え込んでいたミゼリアが2人に話しかける。
「ミウちゃんの髪を見て、私が精霊様の話をした事は覚えてる?」
突然話の繋がりが見えない事を聞かれた2人は顔を見合わせた。
精霊とは特異な存在。そして、『精霊魔術』と呼ばれる特殊な魔術を使う。気に入った人間には、その膨大な力の一片を貸し与えるとも言われている。
2人が『覚えている』と返事をすると、ミゼリアは続けて話し始める。
「実は、あの話には続きがあるの」
「続き?」
「稀に高位精霊様が『人間は力を貸す価値があるのか』を確かめる為に、人間の姿をとって、力を隠しながらの街に紛れ込む事があるらしいの」
「そ、それは知らなかった……」
「ああ、それは初めて聞いたな……」
「ただ、他にも話があってね」
ミゼリアは複雑そうな表情を見せた。
「その人間の街に紛れ込んだ精霊様を怒らせた人がいて、その怒った精霊様がその人ごと、街を滅ぼしちゃったんだって」
その場に緊張が流れた。
「それでね……ミウちゃんってもしかして……」
寝息を立てているミウに視線を移したミゼリアにつられ、2人もミウを見た。
ミゼリアが言いたいことを2人は理解する。
「たしかに……普通ではない綺麗な髪の色で……」
「魔術も無詠唱で扱えて……」
「植物を自在に操る不思議な力がある……」
ミウの特徴はどれを取っても、精霊の特徴に当てはまった。
他にも、美男美女が多いと言われる精霊の特徴に合うように、作り物のように整った顔。
明らかに自分の力を隠そうとしている。
森を歩いて来たのに衣服が全く汚れていないほど森の歩き方が上手い。なども挙げられる。
その後も話し合った3人は、1つの結論に至った。
「ミウちゃんは精霊様かもしれない。だとすれば、彼女を怒らせないようにしなきゃな」
「ええ、分かったわ。実は精霊様に会う事に憧れていたのよね」
「もちろんだ。本物ならこんな貴重な経験出来ないし、力も貸してくれるかもしれない」
「……まぁ、精霊様じゃないとしても、ミウちゃんはまだ子供なんだから俺達が守らないとな」
「「もちろん」」
こうして、新たな誤解が生まれてしまった。
しかし、カイトはそんな事もつゆ知らず、静かに寝息を立てて眠っていた。




