47話 ついに来ました冒険者
「急だけど、冒険者に興味はない?」
「……冒険者?」
異世界ラノベ定番の単語がきこえた。
でも、いきなりなんで? どこからその単語に行き着いた?
「あ、ごめんね。説明が足りなかったわね」
お母さんによる、冒険者の説明が始まった。
「あなたは徴兵に応じるつもりは無いのよね?」
「うん」
「そうよね。でも、あなたの年齢はまだ大丈夫だけれど、徴兵は法律で決まっているから、そういう訳にもいかないの」
以前読んだ本には、貴族の長男は徴兵されるものだと書いてあった。今の俺は、養子だが長男だ。
「そこで冒険者よ」
「冒険者だと、徴兵されずにすむの?」
「冒険者ってね。割と自由なイメージがあるけれど、とても重宝される職業なの」
「なんで?」
「その理由はね、冒険者が森で狩ってくる魔獣にあるの」
あ、なんとなく分かってきた。
「一応、牛とか豚とかの家畜はいるけれど、それだけではどうしても足りないの。だから冒険者が狩ってくる魔獣も、立派な食料なのよ。それに魔獣の素材で作った防具とかは、王国騎士団でも使われているわ」
なるほど、冒険者も立派に国のために貢献しているんだね。
「それにね、他にも雑用とか薬草摘みとか、お店のお手伝いとかも引き受けてくれるから、助かるのよ」
「……あれ? でも、この領にあるの、“ハンター協会”じゃ……?」
ハンターなのに冒険者? なんか違くない?
「それは、試験の時に説明されているらしいわよ」
「……そうなんだ」
少し悩むが、徴兵に応じない以上、冒険者になるしかないだろう。勧められるってことは年齢は大丈夫みたいだし。
「だから、冒険者に登録するだけでも、お勧めするわよ。それに……」
それに? まだ何かあるのか?
「お友達もできるかもしれないわ」
彼女はにっこりと笑いそう言った。
数日後、俺は週に1度行われる冒険者試験に足を運んだ。
領内にあるのでそれほど時間はかからない。
ちなみに、今の俺は女の子の姿だ。
聖騎士長を倒した事により、男の俺……つまり、“カイトの姿”は知れ渡ってしまった。
『聖騎士長を倒したのは黒髪黒眼の少年』
この領、いや……この国にいる人の中で黒髪黒目の人は、俺以外に“大人の”コウさんしかいない。でも、彼は少年ではない。
だから、見つかればすぐにバレてしまう。つまりは変装だ。
スカートをはいているが、性別は男だ。
性別を変えるのは可能なのだが、時間がかかりそうだったのでやめた。
ハンター協会の建物に入ると、中は思ったより豪華なものだった。食堂もあり、かなり綺麗に整えられている。
“依頼掲示板”には様々な依頼の紙が張り出されていた。その中の1枚を屈強なおじさんがちぎって受付に持って行っていく。
異世界定番の地に来て、感動してキョロキョロしている俺。
すると、若い女性が子供に話しかける様な口調で話しかけてきた。
「こんにちは。何か用かな?」
職員の人かな? 少し緊張するが大丈夫そうだ。
「は、はい。僕……私は冒険者試験……を受けに来ました」
そう答えると、女性は少しだけ可愛そうなものを見る目で俺を見た。
な、なに? 俺、変なこと言った?
「……そうですか。分かりました。では、実力試験と質問試験がありますが、どうされますか?」
彼女の口調が変わった。お仕事モードだ。
実力と質問……か。“質問”は緊張して話せなくなる気しかしないから、実力にしておこう。
「実力で……お、お願いします」
すると女性は少し驚いた表情をした。
「……ほ、本当に実力試験を受けるのですか?」
「は、はい……?」
……まぁこの見た目だし、この反応は仕方ないのかな?
「……わ、分かりました。では、こちらへどうぞ」
案内された先は広い部屋。
室内には武器を持った大人が大勢いた。若い人もいるが、流石に俺くらいの人はいない。
「この紙に質問要項を記入しながらお待ちください」
そう言って紙とペンを手渡し女性職員は出て行った。
紙には名前を書く欄と、“剣術試験”と“魔術試験”の欄があった。
名前か……一応平民を装っているから、苗字は書かないでおこう。
でも、カイトは見た目に合わないから……ダメかな? 今思いついた“ミウ”でいいや。
試験は……剣術試験と魔術試験か。一応どっちも出来るし、両方に丸つけとこ。これでいいか。
さっきからジロジロとみられている気がするけど、気にしない。壁際で待とっと。
数十分後、ようやく受付が終わったようだ。
職員が『お静かに!』と言っている。だが、ざわつきはなかなかおさまらない。
すると、前方のドアから1人のとても長いポニーテールの女性が入ってきた。
とんでもなく長い刀を持っている。
あの刀、3メートルくらいない?
その女性はツカツカと、先程から声を出している職員の横まで歩いて行った。
「黙れぇえ!!!!!!!!」
次の瞬間、鼓膜が破れるかと思うほどの大声が響き渡る。
あたりはシーンと静まり返った。
どうやらあの女性の声のようだ。彼女は全員が黙り込んだことを確認し、自己紹介を始めた。
「私はこのハンター協会の会長をしている“セオト”だ! 貴様らの上司になる者だ! 合格すればの話だがな!」
鬼教官みたいでめっちゃ怖い!
彼女は淡々と続けた。
「私は気が短いんだ! 説明は1度しかしないからよく聞け! この冒険者制度に関してだ!」
彼女が説明した事は、俺が抱いていた疑問の答えでもあった。
まず、冒険者は最近できた制度であり、I〜Sでランク付けされている。
依頼達成精度などにより、ランクが上がる仕組みだそうだ。
そして、 元々協会はその名の通り“ハンター”のみ取り扱っていたらしい。
しかし、その“ハンター”は狩り専門で、冒険者の様に雑用や薬草摘みなどの依頼はそもそも無かった。
それ故に低ランクのハンターが無理な依頼を受け、死亡する事が頻繁に起きていたそうだ。
そこで、“狩りもするが、狩り以外の依頼も受けられる”という『冒険者』が提案された。
この提案はすぐに採用され、冒険者の数は増えていき今に至るとの事。
だが、まだ“ハンター”も存在しており、Sランク冒険者のうち、希望者のみが“ハンター”になれるとの事だ。
“ハンター”になれば実力は確かなので、国からの指名依頼なども貰えるが、あまり人気は無いらしい。
協会の名前を変えるかどうかも議論されたが、結局“ハンター協会”のままだそうだ。
「こんなところだ! 続いて試験を始める! 各職員に紙を渡して少し待っていろ!」
ペースが早すぎる……気が短いなら仕方ないのかな。
紙を近くの職員に渡す。その紙は全て会長の元に集められた。
会長はその紙をペラペラと見ていく。
「ふむ、両方に丸をつけたバカもいるが良いだろう!」
両方に丸をつけたバカ……? ……あれ? もしかして俺の事言ってない?
「両方に丸をつけた者は当然両方やってもらう! 嘘だったらその場でぶった斬るからな!」
怖っ!
周りの男達もざわついていた。
「両方受けるやつなんているのか?」
「普通、魔術を使えないなら剣術に専念し、使えるなら魔術に専念する。両方練習するやつなんて今まで聞いたこともないぞ?」
まじか……知らなかった……あと後半の人丁寧に説明してくれてありがとう……。
目立ちたく無かったのにいきなり目立つなこれ……。
あと、今気が付いたけどこの国、黒髪の人全然いないけど、白い髪も全然いないじゃん!
異世界ファンタジー定番の冒険者試験。
出来るだけ目立たない様に心がけながら挑むつもりが、試験が始まる前から雲行きが怪しくなって来ました。
早速やらかしました。