表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/286

5話 第1異世界人、救助

 

 木の幹から覗き込んだ俺は驚き、言葉を失った。


 そこにいたのは人間の女性だった。


 木にもたれかかるように座り込んでいる。

 美人で高貴そうな服を着ている。どう見ても森にくるような格好ではない。


 そして……足には矢が刺さっていた。


 5年ぶりに人を見た……。


 最初に思い浮かんだことはそれだった。すぐに助けるべきかを考える。

彼女を見る限り、助けるべきであるのは明白だろう。しかし、人と関われば面倒臭いことになる、としか考えられない。


 考え事をしていて一瞬油断してしまい、女性と目が合う。女性はビクリと震えたが、人に会えたことからか、すぐに安堵したような顔を見せた。

 しかし、俺は……。


 に、逃げなきゃ!


 女性に背を向け逃げ出そうとする。

 そんな俺に女性は右手を伸ばし、助けを求めて来た


「待って! お願い助けて!」


 その声で我に返った。


 ……ここで逃げたら、俺に酷い事をしていた奴らと同じだ。テイルにだって呆れられてしまうかも。それは嫌だ。


 振り返り女性へと歩を進める。


 ……あれ?


 だが、その途中である疑問が生まれた。


 なんで俺さっき“逃げなきゃ”って思ったんだ? それに……。


 女性に近づいた瞬間から体が震え、今すぐにでもここから逃げ出したい衝動にかられる。


 な……なんだこれ……。



 精神系スキル 人恐怖症 Lv-



「ぁ……」


 その言葉が頭をよぎり、自分の身に起きていることを理解した。


 これは“スキル 人恐怖症”の効果だ。……こんなに怖いのか……。


まるで、大口を開けた化け物の口の中に、自ら足を踏み入れる様な……そんな気分だった。


「ど、どうしたの? 大丈夫?」


 女性が心配そうに話しかけてきた。子供に優しく語りかけるような口調だ。

 まぁ、今の俺は子供だから仕方ないのだが。


「ぁ……ぅ……」


 まともに喋られなくなってしまった。だが、この女性は俺しか助けられない。


 ……逃げるわけにはいかない。


 不安そうな女性の横までなんとか近づく。心臓の音がありえないくらい大きく聞こえた。息もかなり荒くなっている。


「ねぇ、どうしたの? 大丈夫?」


 話しかけられビクリと震える。

 女性は不安そうとも心配そうとも取れる表情をしていた。

 だが、気にかける余裕はない。


 収納部屋からポーションを取り出し、女性に手渡した。これは傷を癒し、傷跡を消す効果があるポーションだ。

 この時女性がとても驚いていたが、今はそれどころではない。


 本当は治癒魔法を使いたいけど、集中出来なさそうだ。


 今はそれで我慢してもらうしかないな……。


 身振り手振りで必死に『矢を抜くから、抜いたらそれを飲んで』と伝える。


「……分かったわ。矢を抜いたら飲めばいいのね」


 なんとか女性には伝わったようだ。


 こんな怪しい子供から手渡されたポーションなんて飲みたくはないだろうけど……。


 異常なまでに震えている手を、必死に矢へと近づける。

 やっと思いで矢を掴むと、女性の小さなうめき声が聞こえた。

 その時、ふと思った。



 今……どんな顔してるんだろ……。



 少なくとも涙は流しているだろう。その他はよく分からない。

 そんなことを考えながら一気に矢を引き抜いた。


「ゔっ……」


 女性は一瞬顔をしかめたが、すぐに手渡したポーションを飲み干した。

 すると、傷は瞬く間にふさがっていった。その様子を女性は目を見開いて見つめている。


 ……よし。とりあえずこれでいいな。


 傷がふさがったことを確認して、勢いをつけて後ろへ飛び退いた。背が木の幹へ接触し、足が止まる。


「ハーッ……ハーッ……」


 いつからか呼吸をすることも忘れていたようだ。


 ひ……人恐怖症……思ってたよりやばいかも……。


「ハーッ……ん……?」


 ふと、手に持った矢の先端を見ると若干黒ずんでいる。


 以前、ポーションの材料になる植物を採集する際に、黒ずんだ毒を出す植物を見たことがある。それに似ていた。


 まさか毒? なら、すぐに家に帰らないと。

 毒消しのポーションはないが、作り方は分かるし材料も家にならある。


 収納部屋に入れておけばよかった。


 幸い、まだ毒の効果は出ていないらしい。

 しかし、毒のことを伝えれば緊張から心拍数が上がり、毒の周りが早くなる。

 という知識ををラノベで見たことがある。


 ここは黙っていたほうがいいな。


「えっと……助けてくれてありがとう。その……大丈夫?」


 女性は気を使ってか、こちらには近づかず、その場から声をかけてきた。


「ぁ......」


 返事をしようとしたが、思うように声が出ない。

 人と話すのが5年ぶりなのでそれだけで緊張してしまう。


「だ……だい、じょ……ぶ」


 舌が全く回らない。ダメだ。まともに喋れる気がしない。


「……そっか。ねぇ、お父さんやお母さんは近くにいる? 呼んできて貰っても良いかな?」

「い……ない」


 俺は首を振って答えた。


「え……それじゃあ君は、どうしてこんなところにいるの?」


 ……まぁ、普通の反応だよな。

 こんな魔獣がそこら中にいて、人も寄り付かない森の中で子供が1人だなんておかしいからな。


 だが、嘘をつく意味も余裕なんて無い。


「み……まわり……に……」

「見回り……? そう……」


 女性は少し不審に思い始めた様子だ。

 だが、こんなところに放っておいたら命の保証はないだろう。服装的に魔獣に襲われたら逃げられるわけがない。

 それに今は毒の件もある。もたもたしている時間はない。


 ……家に連れて行こう。



初めて人恐怖症の効果が出ました。次回はこの女性を家に招きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ