44話 なんか、王様に招待された
グローラット家の養子になり数週間経った。
今は書庫で手当たり次第に、本を読み漁っている。
テイルと話した時にもらった加護、“言語解読”でこの世界の文字をスラスラ読めるようになったからだ。
実は昨日の夜、テイルとまた会ったのだ。その時は1分程でほどしか話せなかったけど。
その時の会話内容は、祝いの言葉と、以前会った時に追加すると言っていた、加護の説明だった。
新しい加護は『各能力効果上昇』だそうだ。
これは言葉の通り、俺の能力の効果を上昇させる加護だ。
これのおかげで『空間魔法での瞬間移動』や、『光魔法で姿を消す』などのチートが出来るようになった訳だ。
そして、これの見所は“スキル”も対象内という事。
となれば、気になるのは“身体強化”と“身体操作”だ。
今度色々試してみるよう……。
「カイト様! いらっしゃいますか!?」
「わぁ!?」
ティカさんがすごい勢いで書斎に入ってきた。手には紙を一枚持っている。
そんな事があり、今は馬車の中だ。
「しかし……驚いたな……」
「ええそうね……」
あの紙は手紙で、王都からのものだった。
内容は、親同伴で俺を王城に招待すると言うものだった。
というわけで、お母さんとお父さんと一緒に王都に馬車で向かっている。
2人は少し不安そうな表情だ。王都で一体何をされるのか……。
王都に到着するなり、手配されていたと言う馬車に迎えられる。
門では手紙に同封されていた招待状を見せると、すんなり中へ入れた。
そして客室に案内され、しばらくして豪華な夕食が運ばれてきた。
だが、この時何故か王様も付いてきた。
正直めちゃくちゃ驚いた。
「そう驚くな、楽にしていてくれ。ちょっと君達と話したいだけだ」
王様はそう言って一緒に食事をとりはじめる。
それで良いのかと言いたくなる程、かなりフレンドリーな王様だった。それによって次第に緊張は薄れていく。
「……して、今回なぜ君達を呼んだのか、なのだが」
話題は、俺たちが王都に来た理由についてになった。
「明日、君に王国騎士団隊長との手合わせをしてもらいたいんだ」
「...…は?」
聞き捨てならない事が聞こえたぞ?
「て、手合わせ……ですか?」
「ああ、軽い手合わせだね」
「えっと……なぜです?」
すると王様はへらへらと笑う。
「いや何、君が倒したあの聖騎士長はこの国トップクラスの実力者だったんだよ? ならばその実力を見てみたくなるものだろう?」
この様子だと聖騎士長を倒した事は気にしていないようだ。
俺の実力を見てみたい...…国王とは、そういうものなのかな? 上に立った事がないから分からないな...…。
「安心してくれ、別に君を無理矢理、徴兵しようだなんて考えていない。これは単純な興味さ」
「...…それなら...…分かりました」
「よし、では明日の午前に城の裏にある演習場でやるぞ。別に命のやり取りをする訳じゃないから気楽に考えてくれ」
その後は特に何も無く、賓客として丁寧なもてなしを受けて就寝した。
翌日、朝の8時くらいに案内人が部屋に来た。
そして城の裏にある演習場に案内される。地面は石畳で綺麗に整備されていた。
そこにはすでに王様が待っていた。その横には2人の男女が立っている。
見た目的には20歳程だろうか。和服に似た服を着ている。……いや、あれは和服だ。
女性は茶髪のショートヘアで瞳が赤い。こめかみの辺りに勾玉の髪飾りをしている。
袖の先には大きな赤い玉が左右に1個ずつ付いていて、ラノベでも見た事のないデザイン。
とても気の強そうな女性だ。
男性の方は、失礼な言い方だが特に特徴はない。俺と同じ黒髪黒目で、着ている服も普通の和服。腰には刀を携えている。
優しそうな人相をしていた。
王様の元に着くと王様がその2人の紹介を始めた。
「この2人は色々あって王国騎士団1番隊の剣術隊、魔術隊の各隊長をしているんだ」
え、若。
俺はてっきり、屈強なおじさんが出てくると思っていたんだけど……。
驚愕する俺を置いて紹介は続いた。
「この2人はワコクという他国の出身でね、見慣れない服は、たしか“キモノ“と言ったか」
キモノ……やっぱり着物の事? それとワコク……倭国? 日本?
すると女性が王様に対して話しかけた。
「ちょっとライナ、あんたまさかこんな子供と戦えっていうの?」
王様を呼び捨て!? やはり気が強いタイプだ……。
「ん? いや、戦えじゃなくて手合わせだよ?」
「同じでしょ」
しかし王様は普通にしている。仲が良いようだ。
「あたしは子供となんて戦わないわよ?」
……あれか? プライドが高いから子供の相手なんて出来ない的な感じか?
だが、俺の予想は外れた。
「怪我なんてさせたらどうするのよ」
あ、多分この人優しい人だ。
すると今度は俺の方を向いた。その目はかなり鋭い。そして彼女はこう言った。
「勘違いしないでよね。あたしが大人気無い事をしたくないだけだから。別にあんたの事を心配している訳じゃないからね」
このセリフは聞いたことがある。よくラノベに登場していた、素直になれない性格……。
ツ、ツンデレだ!!
しかも、キャラ作りとかでは無く、本人は本気で言っているようだ。
“ツンデレ”という概念がこの世界にあるかどうかは知らないが、こんな完璧なツンデレが存在するとは驚きだ。
「ま、まぁまぁ。とにかく自己紹介をしようよ……」
男性が若干引きつりながらそう提案した。
「うっさい、言われなくても分かってるわよ」
だが、男性は一蹴されてしまった。彼女は改めて俺の事を見て自己紹介を始める。
「あたしはミフネ・ヤマト。ライナの紹介にあったようにワ国から来た人間よ。色々あって魔術隊隊長をしているわ」
なんか、荒い自己紹介だな。でも、“ヤマト”か……漢字にするなら“大和”だよな。
続いて男性も自己紹介を始めた。
「俺はコウ・ヤマト。こんな細身だけど剣術部隊隊長をしているんだ」
そして彼はミフネさんのことをちらりと見て続けた。
「あと一応、ミフネの兄だ」
「うっさい! それは関係ないでしょ!」
「あ、あぁ。そうだね」
コウさんはミフネさんの勢いに完全に負けている。
この様子を見るに、ミフネさんは兄のコウさんには“ツン”だけで“デレ”が無い。
兄には厳しい妹的なやつ? ……そうだ、俺も自己紹介をしないと。
「初め、まして。カイト・グローラットです。えっと……聖騎士長を倒、したから、呼ばれ……ました」
そう言った瞬間、2人の表情が変わった。
「え!? アレが倒されたとは聞いたけど、あんたがやったの!?」
「ほ、本当かい!?」
あれ? 聞いてなかったの?
見ると王様はにやにやしていた。確信犯だ。
2人は顔を見合わせると、何かアイコンタクトでもしたのか同時にこちらを見た。
「アレを倒したなら、実力者って事に疑いは無いわね」
「そうだね。アレを倒したなら疑い用は無いね」
どうやら2人は俺の実力を分かってくれたようだ。
と言うか、“アレ”って言ってたね。完全に物扱いだ。俺もだけど。
「まぁ、そんな訳で私は彼の実力を見てみたいんだ。では早速始めてくれ」
王様の一言で俺と2人は石畳でできた広場の中心に向かった。そして中心に着いて向かい合う。
「ここは王国騎士団でもよく戦闘訓練に使ってよく壊すから、仮に床を壊しても気にしなくても良いよ」
「分かり、ました」
「じゃあ先にあたしからね」
王様に招待されてしまいました。




