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262話 カイトの体 4


 人生初の友達を褒められ、なんだか照れ臭くなってくる。


「それを聞くと、ているはんはよっぽどかいとはんには生きててほしいみたいやね。きっと、この人生で沢山幸せになってほしいんどす」

「うん」

「でもまぁ、生きてるなかで死んでしまうことなんてそうそうありまへんけど」

「……う、うーん」


 考えてみたら、俺は結構死にそうな目に遭ってる気がする。やっぱり、普通に生きてたらそんなことないのかな……。


 でも、たしかに思い返せばテイルは俺が死なないようにしてくれているのかも知れない。魔力が多いのもそうだし、賢者って言うのもくれたし、なんなら森での暮らしのサポートまでしてくれた。


 でもまぁ、テイルは友達だし……。


「ているは友達だから……僕だって友達はずっと元気でいてほしいし」

「……ふふっ、そうどすね。うちもおんなじどすえ」


 そこからはテイルのちょっとした思い出話や、朔夜さんの周りの神様の話だったりをした。

 彼女は稲荷と言う神らしいけど、他にも色々な神が土地神として存在しているらしい。性格や好きな事もそれぞれ違っていて、そう言った面では人間とあまり大差はないそうだ。


 ……まぁ、テイルがそうだったしあまり驚かなかった。

 

 そんな会話の中で、朔夜さんがとある提案をした。


「そうや、かいとはん」

「なに?」

「せっかく姿をいじれるからだなんやから、ちょっと遊んでみいひん?」

「あ、遊ぶ?」

「そうどす。すぐに戻れますさかい、心配はいりまへんえ」


 姿を変えるってことは、俺がミウのになることと同じ事だよね? それならすぐ戻れるし大丈夫かな。


「うん、やってみたい」

「ふふ、おおきに。それじゃあここに座っておくれやす」


 彼女が膝をぽんぽんと叩いたので、促されるがままにそこ上へ座る。今度は彼女に背を向けるように座った。

 そして、さっきの手鏡を渡される。


「そういえば、なぜ神はんが姿を変えられるか話してまへんでしたね」

「あ、うん。僕も気になってた」


 彼女の言う通り俺の体が神様と似ているなら、神様が姿を変えられる理由がそのまま俺にも当てはまるのかも知れない。


「うちら神はんが姿を変えられるのは……」


 そう話だし、俺の頭に両手がふわりと乗せられる。


「神はんの体って、実態が無い言うたやろ?」

「うん」

「分かりやすく言うと、情報の集まりなんどす」

「じょ、情報……」

「そうどす。まぁ、厳密には合ってるとも違うとも言えはるんやけれど、そう言う事どす」


 情報の集まりで体が出来てる……? よく分からないけど、とりあえずそう言うものなんだ。


 そう説明している間も、彼女は両手で俺の頭を小さく円を描くように撫でている。その様子を俺は手鏡越しに見ていた。


「……それで、その情報を書き換えたり、書き足したりして姿を変えるんどす」

「書き換える……」

「例えば……」


 頭を撫でていた手がパッと離される。

 そこにはさっきと同じ動物の耳が天井へ向かって立っている。

 

「こんなふうに、“人間はんの耳”をうちら“稲荷の耳”に書き換えたり」

「わぁ……」

「ふふふ、お揃いどすえ」


 首を横に向けたり下に向けたり、色々な角度から手鏡でその耳を観察する。

 集中すれば少しだが耳を動かすことが出来る。


「ほら、次は立っておくれやす」

「あ、うん」

「そのまま背中をこっちへ」


 言われるがまま立ち上がる。今度は腰のあたりを撫でられた。


「はい、かいらしい尻尾のできあがりどす」

「……え?」


 漏れた声を出しながら視線を自分の腰へ向ける。

 そこには朔夜さんと同じような尻尾が生えていた。


「ええ!? す、すごい!」


 思わず驚きの声をあげる。すると、その尻尾も感情に合わせて上下左右にふりふりと動いた。


「ふふふ、すっかりうちとおんなじになりましたね」

「す、すごい……」


 頭の耳を触ったり、尻尾の毛並みを撫でたり指を立てたりする。間違いなく本物だ。


「人間はんからしたら、ありえへんかったりめちゃくちゃなことしてはると思うやろうけれど、神はんからしたらこれは当たり前なんどす」

「うん……」

「それに、神はんの体も持ってはるかいとはんにとっても、出来て当たり前のなんどすえ」


 た、たしかに……これって髪の色を変えたり目の形を変えたりすることの延長線なのかな。だとしたら、俺1人でもできることなのかも知れない。


 そう思うと、改めてこの世界の自分の体に興味に似た好奇心が芽生えてきた。他にはどんなことができるんだろう。


 自分でやると時間がかかったけど、朔夜さんなら一瞬だった。やっぱり神様だからそう言うの慣れてるのかな?


「ほ、他には?」

「他?」

「うん、他にはどんなのが出来るの?」

「そうやねぇ、あまりやりすぎて負担がかかるのもあかんし、それの範囲内なら」

「うん! うん!」


 期待の眼差しを向ける。彼女らまぁまぁとなだめながら俺の体に手を伸ばした。



 ー 数十分後。


 あれほどはしゃいでいたカイトは朔夜の膝で眠っていた。

 今の姿は狐の耳に3本の尻尾、そしてそれらの色は朔夜と同じ茶髪に変化した髪と同じ色になっている。


 結局あのあと、尻尾を2本増やし茶髪に変化したところで疲れて眠ってしまった。しかし、その寝顔は安らかで気持ちよさそうに眠っている。


 そんな彼の頭を撫でながら、朔夜はじっとその寝顔を見つめていた。その表情にはいつもの柔らかい笑顔はない。


 そしてぽつりと呟く。


「こんないたいけなの子が、こんな体なんて……」


 その声色は冷静さの中に困惑が隠れていた。


 さきにも彼女が言った通り、彼の体はかなり丈夫になっている。

 丈夫なことに悪い事はない。実際多くの戦闘でその丈夫さに彼は助けられていた。


 しかし、朔夜はそれについても疑問を感じてはいたが、特に気になっていたのは加護の方だった。


「即死無効……」


 文字通り、“死”を覆すとんでもない加護。生命を司る神、テイルだからこそ為せるであろうどこか強引さも感じる内容だ。


 生きているものは死んだらそれで終わり。生き返る事はない。


 しかし、それを即死という狭い範囲に限定されているとはいえ無かったことにしてしまうなど、神の視点からしてもありえない事だった。

 守るにしても過剰なような気がしたのだ。


 先程は幸せになってほしいからテイルはこの加護をくれたのだろうと話した。しかし、実は本心で思った事は違った。


 朔夜は、“テイルはカイトに死なれては困る”のではないかと感じたのだ。


「……」


 朔夜はもう一度カイトの顔をじっと見た。その寝顔はただの子供。姿が変わっている事を除けばいたって普通の子供だ。


 そんな子供に、なぜここまでするのだろうか?


 思い浮かぶ答えは、やはり先の答えと同様だった。


「……」


 顔を上へ向ける。しかし、その意識は目先の天井ではなく天高い空へ向けられていた。


「どうしてここまでしはるん? ているはん」


 外から聞こえてくる虫の鳴き声にすらかき消されるような、小さな誰にも届かない呟き。

 しかし、さびれた神社の役目を終えた一神に、その答えは分からなかった。

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