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249話 ポチと朔夜 5


 すると、朔夜はにっこりと笑顔を見せ頷いた。


「はい、分かりました。かいとはんもそれでええんね?」

「ぁ、はっはい。あの……ありがとうございます」

「かまいまへんよ。……やっぱりうちも、賑やかな方がええよてなぁ。あ、そうや、ぽちはんはどいしはるん? この神社に泊まりはりますか?」

「……いえ、私には仕事があります。ほとんど住み込みのようなものですので問題はありません。お気遣いありがとうございます」

「そうやったんね。お仕事、おきばりやす」

「はい、それと私の不始末に協力してくださり感謝いたします」

「はいはい」


 深々と頭を下げるポチ。朔夜は手を軽くあげて応えた。

 すると、頭を上げたポチがカイトの肩をぽんぽんと叩いた。なんだと彼がポチへ顔を向ける。

 

「主人様、お手数なのですが1つお頼みしたいことが」

「う、うん。なに?」

「ありがとうございます。朔夜様もよろしいでしょうか」


 朔夜は良いと返事をした。


「ありがとうございます。と言いましても簡単な事です。毎日主人様の体の様子を診せていただきたいのです。子供の体ですので、体調を崩されては大変ですから」

「そうやね、かいとはんに風邪でもひかれたらうちも気が気でなくなります」

「はい、ですので毎日1度で良いので街に来て欲しいのです」

「もちろんかまいまへん。大事なことやさかい」

「主人様もそれでよろしいですか?」

「あっ……うん。分かった」


 こうしてカイトが朔夜の神社に寝泊まりすることが決まった。

 食事の件はポチが用意すると言ったが、朔夜はあまり無理はしなくて良いと食事面まで自分が面倒を見ようかと提案。ポチは何から何までと申し訳なさそうにその提案を受けた。

 

 そしてその後、ポチが総一郎の元へ戻ると言い出した。カイトの件がひとまず解消されたからには、立場上仕事に戻らなければならない。


「それでは朔夜様、よろしくお願いします」

「はいはい、ちゃんとお世話するさかいあまり心配せんでもよろしおす。ぽちはんもあいさにおいで」

「ありがとうございます」


 そしてカイトへ一時の別れの言葉と、2人にかけた迷惑の埋め合わせは後日すると言い残し去っていった。


「もう、別にええ言うてますのに」

「うん……僕なんて助けてもらったのに」

「よほど律儀な人なんやなぁ」


 ポチを見送った2人は神社の中へ入った。

 中は以前カイトが来た時と何も変わらず、相変わらず壁に飾ってある狐の面が異彩を放っている。


「さて、まだ少し早いけどお昼にしまひょか。かいとはんがここに住みはるための準備はその後にでも」

「は、はい。よろしくお願いします」


 すると、朔夜がなにやらむすっとした表情を見せる。


「かいとはん、一緒にしばらく過ごすんやから他人行儀はあきまへんえ」

「た、他人……え?」


 カイトにその自覚はなく戸惑っている。


「そないに緊張しはらなくて大丈夫どすえ。丁寧な言葉遣いなんてめっそうな、かいとはんは子供やさかいもっと砕けた話し方をしはってください」

「く、砕けた……?」


 右手をポンッと胸に置き、少し誇らしげにして昨夜は答えた。


「うちのことは歳の離れた、ちょっとばかしいたずら好きなお姉さんと思いはってくれればええどす」

「……?」

「要するに神様とか人間とか、そんな事は忘れてください」

「……い、良いんですか?」

「先に言いましたやろ? 今のうちは神様なんて大層なものやあらしまへん。それにな、かいとはんにはあまり気を遣って欲しくないんどすえ」


 すると、朔夜は「よよよ」と袖で両目を覆い隠し泣くそぶりを見せた。


「せっかく手を差し伸べた子が他人行儀だなんて……うちは悲しいどすえ」

「え!? そ……そんなつもりじゃ……」


 突然くすんくすんと鼻を啜り、泣き始めた彼女に困惑して慌てている。

 朔夜はそれを横目で伺いつつ続けた。


「それなら、うちに敬語を使わないって約束してくれはる?」

「や、約束します! あっいや……約束する! 約束するから泣かないでぇ」


 逆に泣きそうになっているカイトの返答を聞いた朔夜は、パッと両手を広げて笑顔を見せた。

 それを見たカイトは固まっている。

 

「かんにんえ。大丈夫、泣いてまへんえ」

「えっぁ……ぇ?」

「ふふ、かんにんえ。ほら、こっち来はって?」


 催促されるがままに彼女へ近づくカイト。朔夜は近づいたカイトの腰に左手を当て、右手でその頭を撫でながら優しい声色で伝えた。


「ぽちはんと話すかいとはんは、敬語ではありまへんでした。あっちが素のかいとはんやろ?」

「ぁ……えと……」

「“帰る家”くらい、素でいないと気が滅入ってしまいますえ」

「……」


 黙り込むカイト。実は彼は、倭国に来てからずっと気を張り続けている事をなんとなくだが自覚し、疲れを感じていた。


「それにほら、うちは先からずっといちびっています。それくらいでええんどす」

「……い、いちびるって……なんですか?」

「ふざけるって意味どす」

「……」


 彼女との会話を思い返す。言われてみれば、カイト達が真剣な話をしているときは真剣に聞いていたが、2人きりの時は割とふざけていたようなきもする。


「お互い少しいちびり合うくらいがええと思います。そやから、かいとはんにはうちに心を開いてもらいたいなって、思っているんどすえ」

「……」


(心を開く……開けていなかったのかな……)


 朔夜は優しくていい人。カイトはもちろんそれを分かっていた。しかし、心を開けていなかったと言う事に妙な衝撃を受けているようだ。


「どうどすか? かいとはん」


 静かな問いに、彼もまた静かにうなづいた。


「……うん」

「……おおきに」


 力の抜けた返事に、にこりと笑う朔夜。


「よし、ほしたら少し早いけれどお昼にしまひょか」

「……うん、ありがとう」

「ふふ、かまいまへんえ」


 カイトの緊張感のない返答に、朔夜は笑った。

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