247話 ポチと朔夜 3
「うちが見えへんかった人が見えはるようになるなんて、初めてどす」
「そ、そうなんですか……あ、ぽち、あのね……」
朔夜の呟きのような言葉をポチへ伝える。
「……そうなのですか……」
「うん……」
「……この感覚的変化の他にも、心情的変化もあります。私が自身の事を朔夜様にお話しした理由にも直結しますので、お話ししますね」
朔夜の呟きを告げられ、答えが出なかった事に少し気を落としたような様子。しかし、すぐに切り替え自身の現状を伝えるべくポチは話し続けた。
「……し、心情?」
「はい、先ほどまで認識すら出来なかった朔夜様に、どこか”安心感”を覚えるのです。決して朔夜様を敵視していたわけではないのですが、こちらも会話するうちに徐々に……」
「あらあら……」
混乱を感じさせる表情のポチは、自分の状況をありのままに伝えようとして言葉選びに詰まってしまっている。
それに対し、朔夜は若干照れ臭そうに微笑んでいた。だが、その中に申し訳なさそうな雰囲気も漂わせている。
「……この事について私の見解をお伝えしたいのですが、少々無礼な内容です。よろしいでしょうか?」
「かまいまへんよ」
「朔夜さん、大丈夫だって」
「……ありがとうございます。朔夜様の存在を感じ取ることが出来る事は、原因は分かりませんが不利益な事ではないので問題はありません。ただ、不思議と感じた安心感……こちらはあまり良くありません」
「……なんで……?」
カイトはポチの言っていることがいまいち分からず、首を傾げている。
「正体不明な安心感はかなり危険なものです。仮にその相手が悪意ある者であればなおさら……安心感を感じると言う事は、それ相応の理由が必要なのです」
「そうやねぇ……その通りどす」
「朔夜様、無礼な発言申し訳ありません」
「別に怒ってへんよ。かいとはん、そう伝えておくれやす」
「ぇ……あ、うん……分かった……」
カイトは若干話について行けていない様子。
「朔夜さん、怒ってないって……」
「そうでしたか。ありがとうございます。……確認なのですが、朔夜様はこの事に心当たりはありますか?」
淡い期待を思わせる表情で尋ねるポチ。しかし、朔夜は申し訳なさそうに答えた。
「かんにんえ、心当たりはあらしまへん」
「心当たり無いって……無いで良いんですよね?」
「合ってますえ」
「そうですか……分かりました」
ポチは若干不服そうな様子だが、自分を納得させるように頷いている。
「とにかく、私がお伝えしたかった事はそう言った状況に少々困惑してしまったこと、それに加え妙な安心感によって私自身の事を包み隠さずお話ししました。主人様、ご不明な点はございますか?」
「……え、あ……ううん、大丈夫だよ」
(そ、そうだった……俺が変な顔してたからポチはこの話しをしたんだった)
ポチの話しを真剣に聞いていたことで、ことの発端が自分であった事を忘れていたカイトは慌てて首を振り誤魔化した。
「……」
「……」
「……」
話しが一区切りつき、内容も内容だったゆえに会話がそこで止まってしまった。
カイトはその空気に若干居心地の悪さを感じているようだが、ポチはこの問題について考え込み朔夜はあまり気にしている様子はない。
そんな朔夜がポンッと手を叩いて2人へ問うた。
「そういえばかいとはんとぽちはんは、なんで今日ここに来はったん?」
「あ、えっと……傘を返しに来たんですけど……」
「ああそうやったね。でも、“けど”って事はまだ何かありはるんどすな?」
言おうとしていたことを見透かされ面食らう。
「ぁ、えっと……」
「……雨が上がるまでの間、ここで雨宿りさせていただいてもよろしいでしょうか?」
見かねたポチが代わりに説明をする。朔夜は「なるほど」と2人に視線を行き来させ頷いた。
「そうやね、まだ外は雨が降ってますさかい、もちろんええどす」
「ありがとうございます」




