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245話 ポチと朔夜 1


 すると、混乱する彼へ言い聞かせるように朔夜が呟いた。


「黙ってしまっていて、かんにんな。けれど、悪気はなかったんどす」

「……わ、悪気……?」

「そうどす。怖がらせたらあかん思うて……ちゃんと話しますさかい、許しておくれやす」

「ぇっあ……お、怒ってなんて……」


 首を振り否定する。その反応をどう思ったのかは不明だが、彼女は虚無を纏った微笑みは絶やさなかった。


「うちが……いえ、土地神が見えはる人間はんはね……滅多におへんえ」


 その表情、仕草には迷いが垣間見えた。視線はほんの少しだが泳ぎ、言葉の間は詰まってしまっている。

 それは、ずっと隠してきた事を話す事を迷っているかのような印象を与えた。

 

「そ、そうなんですか……?」

「そうどす。うちが土地神の姿が見える子に最後に会ったのは、70年とすこし前……」

「えぇ……!?」

「それくらい、かいとはんは珍しい子なんどすえ」


 衝撃の事実に思わず声を上げるカイト。全ての人間に彼女が見えるとは流石に思っていなかったものの、その少なさは彼の予想を上回っていた。


「主人様、いかがされましたか?」


 朔夜が見えないポチは、突然驚きの声を上げたカイトの状況を把握できていない。


「ぁ、えっとね……こ、これ話しても……?」

「どうぞ」


 朔夜へ確認してから、彼は先程の話をポチへ説明した。ポチはそれを顎に手を当て、頷きながら聞いている。

 

「なるほど……疑問でしたが、要するに主人様が特別だというわけですね」

「と、特別……なのかな……?」


 “特別”と言う単語の響きに照れと困惑が入り混じり、どう反応すべきか悩んでいる様子を見せている。

 そんなカイトへ朔夜が話しかけた。


「カイトはん、少しよろしいどすか?」

「ぁっは、はい。なんですか?」

「うちね、その殿方ともお話ししてみたいんよ。見たところ、人間はんやないみたいやし」

「……ぇ!? 分かるんですか!?」

「分かります。上手く説明は出来へんけれど……人間はんやない事だけは分かります。あとは、優しい方って事もやね」

「……ぁえ、えっと、僕はどうすれば?」


 カイトはポチを褒められ事に不思議と嬉しさを感じている。それにハッとして、誤魔化すように何をすべきか尋ねた。


「そうやね、うちが言った事をそのまま伝えておくれやす」

「分かりました」


 ポチにも事情を説明し、2人が正面になるよう座布団が並べられた。

 ポチには見えていないが、朔夜は彼の正面に座りまず深々と頭を下げた。


「はじめまして、うちは朔夜と申します。昔は土地神としてここらの管理しとりました」


 それをカイトが一字一句間違えぬようにポチへ伝える。緊張から辿々しい通訳となっているが、ポチはあまり気にしている様子はなく真剣に聞いている。

 そして、通訳し終えたタイミングで彼も自己紹介を始めた。


「はじめまして、私はぽち・しりうすと言います。こちらのかいと様に仕えています」

「ふふふ、ぽち言うんね。かいらしい名前どす」


 微笑む朔夜に対し、軽く自己紹介を終えたポチはせわしなく視線を小さく左右に動かしている。その様子から、やはり彼女の姿を視認できていないようだ。


「……朔夜様、大変申し訳ありませんが話しを交わす前にそこにいらっしゃると言う事を、私にも分かるようにしていただく事はできますか?」


 ポチの口から珍しく不安そうな声色の言葉が出た。決して恐怖心などを感じているわけではなさそうだが、やはりポチとて目に見えない相手にはいささか不安を感じるようだ。


「そうやねぇ……姿を見せる事は出来ひんさかい、これでも持ってみまひょか」


 その要望に応えるべく、彼女は囲炉裏の上に吊るしてあったやかんを手に取った。

 カイトからは朔夜が普通にやかんを手に持っているように見えるが、ポチからはやかんが宙に浮いているように見えている。


「なるほど、ありがとうございます。たしかにそこにいらっしゃるのですね」

「いえいえ、なんならずっと持っていまひょか?」

「いえ、そこまでしていただくことはありません。お手数おかけして申し訳ありません」

「気にする必要はあらしまへんえ。えらい丁寧な方なんやね」

「そんなことはありませんよ」


 









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