表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/286

238話 けんか



「その問題、解決自体は簡単です。私が依頼を放棄し、常に主人様と行動を共にすればいいのです」


 淡々とそう言い放つポチ。その瞬間、コウさんとミフネさんがピクリと反応した。


「それは……ちょっと困るね」


 場の空気にピリついたものを感じた。突然3人の様子が変わり驚く。


「ぽ……ぽち……?」

「……主人様。少し、本音を交えて話させていただきますね」

「……ぇ?」


 ほ、本音……?


 そう言うと、ポチはコウさん達を見据えた。その表情は優しげであったが、どこか圧を感じる。


「実は、私は場合によってはこの国に一月ひとつき間ずっと居るつもりは無かったのですよ」

「……え!?」


 そんなの初めて聞いた。思わず驚きの声をあげる。


「それはどう言うことなんだい?」

「見ず知らずの異国の地で何かしら良からぬ事が起きる想像は簡単にできます。そして、それが現実となりもし万が一、主人様の身に危険が生じるようであれば……私は、主人様を連れて王国へ帰る所存です」

「……なるほどね」

「そしてこれは、ご両親様の意向でもあります」


 ぽ、ぽち……。


 彼は胸に手を置くと、勢いを変えずに話し続けた。


「私とご両親様の意思は、なによりもかいと様の安全です。申し訳ありませんが、これはどのようなことでも譲る事はできません」

「……」


 そ、そうだったんだ……お母さんとお父さんも……。


 しかし、そんな嬉しいという感情はすぐに消えてしまった。

 先ほどから、明らかにコウさんとミフネさんがピリついている。見るからに怒っている、と言うわけではないが普段と全く違う。


「……君の言いたい事はよく分かったよ。正直に言えば、君の言っている事は正しい。当然の事だ」

「でも……あたし達もおじいちゃんを助けたいの。その思いは同じよ」


 鋭い目つきでポチへ語る2人。しかし、ポチは淡々とした口調で応じている。


「倭国には優秀な方々が大勢いらっしゃるのでしょう? その方々に任せられては?」

「確かにそうだけど、君みたいに姿を消せるわけじゃない。敵が分からない以上、少しでも手数を増やしたいんだよ」

「それに、毒を持っている犯人を堂々を見張ることができる人、なんて軽々と手離したくないわ。正直、1番頼りにできるもの」

「ふむ、なるほど。もっともな意見です。ですが……」


 気がつけば、目の前で3人が口論を始めてしまった。


 あ、あれ……な、なんでけんかになってるの……?


 この状況に、どうするべきか分からずただ彼らの顔を順番に見るだけ。しかし、当然そんな事では状況は変わらない。


「……ぅぅ……」


 なぜか次第に息が苦しくなって来た。胸を押さえ、大きく深呼吸を繰り返す。

 だが、何度繰り返しても息苦しさに変わりはなかった。


 な、なんで……なにこれ……?


 突然感じ始めた息苦しさに必死に耐える。

 どうして? なんで、コウさん達のけんかを見て……。


 ……なんで、けんかしてるの……?


「……ぁ……」


 お、俺のせい……?


 同じ疑問が頭の中でぐるぐると回っていて、その答えが今分かった。

 今、目の前で起きているけんかは、俺をどうするかが原因なんだ。俺がいなければ、けんかにはならなかったのかも……。


 急に孤独感に襲われた。胸が締め付けられる。

 

 お、俺……邪魔だったのかな……。


「いい加減にしろぉお!!!」


 突然、あたりに怒鳴り声が響き渡った。口論をしていた3人の視線が一箇所に集まる。


「落ち着いてください。口論ばかりでは、話は進みません」


 怒鳴り声はセオトさんのものだった。すると、彼女は俺の元まで歩いて来きた。そのまましゃがみ込み、俺の頬を拭うように手を動かした。


「それに……かいとさん、泣いてしまってますよ」

「……え……?」


 彼女の言葉で気がついた。いつのまにか、目からはポロポロと涙が流れている。

 

「あ、あれ……?」

「主人様!? も、申し訳ありません」


 ポチが珍しく慌てた様子でこちらへ駆け寄って来た。膝立ちで俺の目線に合わせ、残っていた涙を拭き取ってくれる。


 ……。


「ご、ごめんなさい……」

「な、なぜ謝られるのです?」

「だ、だって……」


 3人のけんかを見ていたら、申し訳ないやら悲しいやらの気持ちでいっぱいになる。


「僕のせいで……」

「「「……っ」」」


 そう呟くと、彼らは互いに目を合わせ困ったような表情を見せた。

 その表情の意味は分からなかったが、とにかく謝らないといけない気がした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ