237話 次の日
「……ふぁ……」
……な、なんだろ……急に眠気が……。
「おや、眠くなって来たのかい?」
「は……はい……」
「はは、きっと気が緩んだんだよ。それに今日は疲れてるってさっき言っていたしね」
そう言うと、コウさんは立ち上がって布団の用意をしてくれた。そして、布団が入っていた押し入れの中から寝る用の服を1着持って、こちらへ歩み寄って来る。
「ほら、これに着替えて。今日はもう休みなよ」
「……」
重いまぶたをなんとか開きつつ、うなづいて応える。
よろよろと立ち上がると、コウさんは服を着替えさせてくれた。そして、布団まで抱えて運んでくれた。
横にされると、体に掛け布団をかけられる。もうすでにほとんど目は空いていない。
「お、おやすみなさい……」
「うん、おやすみ」
……。
「予想が外れたよ……」
そう落胆した様子のコウさんの口から告げられたのは、次の日の昼だった。
特に何事もなく午前を過ごし、昼過ぎにコウさん達と一緒にポチと合流した。そして誰もいない森の中へ移動する。
コウさんが周りを確認して来たが、ここには人もそれ以外の怪しい影もないとのことだ。
そして、コウさんの言葉の意味はすぐに説明された。
「昨日、かいと君には“俺達は街に残る事になる”って言ったんだけど……」
「さっき、私達に京都へ来るよう指令が来たのよ」
すると、ミフネさんが1枚の紙をひらひらと見せて来た。
その紙は筒状に丸められて、その上から厳重に紐で括られている。見える箇所には文字は何も書いていなかったので、ぱっと見何の紙かは分からない。
というか……。
「い、いつの間にそれ……」
ポチと合流するまで、コウさん達3人とはずっと一緒にいた。いつの間にその紙を受けっていたんだろ……。
「忍ってのは専門家よ。子供に感づかれるようじゃあ任命なんてされないわよ」
「……そ、そうなんだ……」
「……まぁ、あんたが鈍臭いんじゃなくって、忍びの技術が高いだけだから。別に気にする必要はないわ」
すかさずフォローしてくれるあたり、さすがミフネさんだと思う。その横でセオトさんはこくこくと頷いている。
というか、それを俺に気がつかれないように読んでる3人もすごいと思う。
「あー……じゃあ、今回のことについて話させてもらうよ」
困った表情のコウさんが話を切り出した。口調からもだいぶ動揺しているように感じる。
「まぁ……屋敷に怪しまれずに入れる理由を持ってるおれたちが、まさか都に来るように言われるなんて思ってなかったからさ。……とりあえず、今すぐに決めなければならない事が1つ出来た」
「主人様ですね」
「うん、そうだ。かいと君がこの街に留まるのか、俺達と一緒に行動するのか……決めなければならない」
彼はそう言うと、指を1本ずつ立てながら話した。
「先に、俺達について来た場合。それなら一応俺達が世話できるけど、都で何があるか分からないからずっと彼のそばにいる事は難しいと思う」
「そうね。それに、何かしらの不都合で彼の正体が割れてしまったら……倭国の中心でそんなことになれば、厄介なことになるわ」
「今は再び鎖国していますしね……それに、鎖国の際は王国の方を相当嫌悪していたと聞いてますし……」
コウさんは一息置いてから、今度は逆の手の指を立てながら話し始めた。
「……それで、この街に残ると言う選択肢。こっちもこっちで問題だらけだ」
「……」
「まず、俺達はいつ帰って来れるか分からない。それまでの間、宿で過ごすとしてもその分の大金はきっと不都合を呼び寄せる」
「それに、子供が1人で宿に泊まるのは普通じゃないわ。必ず怪しむ輩が出て来るでしょうし……」
コウさん達を、じっと見つめる。彼らは顔をしかめてかなり悩み込んでいる様子だ。
「……」
そんなに俺のために悩んでくれるんだ……。
彼らをみていると、そんなふうに思った。大事にしてくれていると思えて、少し嬉しくなる。
しかし、そんな俺と反対に場の空気は時間が経つにつれて重くなっていった。
すると、今まで黙っていたポチが口を開いた。
「その問題、解決自体は簡単です。私が依頼を放棄し、常に主人様と行動を共にすればいいのです」
淡々とそう言い放つポチ。その瞬間、コウさんとミフネさんがピクリと反応した。
「それは……ちょっと困るね」