235話 街で
「じゃあ史郎君。明日の昼にここで一旦集合だ」
「分かりました」
「ひとまずこの一晩、頼んだよ」
「任せてください。じゃあかいと、また後でね」
街に着き、総一郎さんの屋敷の前でポチと別れた。彼は誰にも見られない様屋敷の裏手の山へ入り、光魔法で姿を消した。
「……」
な、なんだろ……。
ポチの姿が見えなくなったその時から、妙にそわそわしてきた。
きっとポチなら大丈夫なんだろうけど……なんでだろ……ちょっと不安……なのかな?
その感情の正体はよく分からない。ただ、なんとなく不安である事だけは分かる。
「……なにか心配な事があるんですか?」
そんな俺に、手を繋いでいたセオトさんが顔を覗き込んで聞いてきた。
ハッと我に帰り、慌てて答える。
「ぁ……だ、大丈夫です」
「そうですか? なんだか悲しそうな顔してますけど……」
「……大丈夫です」
ポチが失敗するわけないし、この不安な気持ちは気のせいだ。
自分にそう言い聞かせ、頭を振るう。
「……ん? かいと君、どうかしたかい?」
「ぁ、いや……な、なんでもないです」
「そうかい? なら良いんだけど」
「……ねぇ、ちょっと聞いても良い? その傘、どうしたのよ。さっきから気になってたんだけど、あんたそんなの持ってなかったわよね?」
あ、この傘か……。
どうやら、朔夜さんに借りた傘が気になってたみたいだ。
まぁ、こんなに目立つ傘、気にならない方が少ないと思うけど……。
「……」
で、でも……神様から借りたなんて言ってもなぁ……変な目で見られたくないし……どうしよう……。
「……どうしたのよ」
「ぁ、えっと……か、借してもらったんです。それで、今度返しに……」
「……そ、なら良いわ。親切な人と会えて良かったわね」
彼女は納得した様にうなづき、俺から目を逸らした。不審には思われなかったみたいだ。
「傘、私が持ちましょうか?」
「えっぁ……じ、じゃあ……お願いします」
すると、セオトさんが傘を持ってくれた。正直、彼女と手を繋いでいるから傘は持ちにくかった。
「……じゃあ、俺たちは宿に行こうか。あ、そうだ。そろそろ夕食の時間だし、どこかに寄ろうか」
コウさんの提案で、宿にの前に飲食店へ行った。
昼には何を食べたと聞かれ、うどんと答えたら蕎麦を勧められた。
勧められた蕎麦は盛り蕎麦というらしい。麺つゆにつけて食べる食べ方は初めてで楽しかった。
その後、無事に宿へ到着した。
宿は豪華な内装をしていて、大きい部屋が襖で2つに分かれていて、奥の壁には掛け軸や花が飾ってある。
押し入れの中にはふかふかの座布団や、暖かそうな布団が入れられていた。
1日の疲れと、思ったより蕎麦でお腹が膨れていたのもあり、部屋に入るなり畳へ座り込む。
やっと一息つけた。
「ふぅ……」
「だいぶお疲れみたいだね」
「はい……色々あって……」
今日は心身共に疲れた……でも、色んな人と知り合えたし、良い事もあった……。
「うん、結果的に1人にしてしまったようだし、謝るよ、ごめんね。良かったら何があったのか教えてもらえないかな?」
そんな俺に、コウさんは笑いかけた。部屋は男女で分かれていて、部屋には俺とコウさんの2人だけだ。
「今日の事……? えっと……午前中に朔夜さんと会って……」
「朔夜さん? ああ、傘を貸してくれたって人かい?」
「そ……そうです」
人じゃなくて神様だけど……まぁいっか。神様って言ったら変な目で見られるかもしれないし……。
「それで、その後こたつちゃんを迎えに行って……」
「迎え……って、何があったんだい?」
「えっと……じ、実は……」
聞き返され、思わず今までのことを話す。魔術を見られたことに関しては、まだ彼には話していない。
また怒られてしまうかも知れないと思いつつ、勇気を出して全て正直に話した。
「……それでこたつちゃんを迎えに……」
話し終え、びくびくしながら彼の顔を伺う。しかし、特に怒っている様子ではなかった。
「……魔術を見られた件については美音から聞いていたよ」
「ぁ……き、聞いてたんですか……」
心臓のドキッという音が耳に聞こえてくるようだった。
「まぁ道すがらね。泣いて謝られたって事も聞かされた。だから別に怒ったりしないよ」
「ぅ……」
そ、そこまで……恥ずかしい……。
「まぁ反省もしているみたいだし、次から気をつけてくれれば良いからさ」
「は、はい……ごめんなさい……」
「うん、それにその子は誰にも話していなかったんだろう? 不幸中の幸いだったね」
「……」
うつむきながらうなづいて応える。
「その件については今日中に話すつもりだったけど、話も聞けたしこれでよしとするよ」
「ぁ……は、はい。分かりました」
「でだ、急で申し訳ないけど、今後の方針について話させてもらうよ。大事な話だからね」
「は、はい」
今後の方針って……。




