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221話 あの女の子 -



「それに、ここ数百年は土地神の信仰離れが多くなってはります。……って、少し愚痴っぽくなってしまいましたなぁ……」


 声色から、彼女の苦笑いが頭に浮かぶ。


「……」

「……? かいとはん? だんまりやけど、どないしはったん?」


 ……あ、そうだ。


「……あ、うちの話し嫌やった? そやったら、かんに……」

「ぼ、僕! 信じます! ……えと、朔夜さんはここにいます! ……? あれ……? 信じます……?」


 ……ん? 俺変なこと言ってる? いや、合ってる……?


 思ってる事をうまく伝えられる言葉が浮かばず、首を傾げる。

 えっと、信仰……すればいいんだよね? だから……朔夜さんはここに居る事を……あれ?


「……ふふふっ」

「……わっ……」


 頭をわしゃわしゃっと撫でられた。


「かいとはんはほんに、優しい子やね。おおきに」

「……えっと……」

「大丈夫、言いたいことはちゃーんと、伝わりましたよって」


 あ、伝わったんだ……それなら良かった。


「ほんに、おおきにえ」

「う、うん……で、でも……僕1人じゃあまり変わらない……」


 頭を撫でられながらお礼を言われ、少し照れくさくなってしまった。口からは、思わずネガティブ発言が出てしまう。

 しかし、朔夜さんはそれをすぐに否定した。


「そんな事あらしまへん 。仙教が出来てからは、そっちを信仰しはる人間はんが増えたさかい、かいとはんだけでもうちを信じてくれはるだけで、十分にありがたいよ」

「仙教……」


 そっか……そういえば、仙教もあったんだ。


 新しい宗教が出来れば、そっちに行ってしまう人が増えるだろう。

 つまり、信仰心で生きている土地神にとっては死活問題だ。


「ほんに助かってますよ。さっきもうだけれど、ここには神木はんも居はるから、うちなんていつ消えてなくなってもおかしくはありまへんからなぁ」

「え……」

「ま、今までそうはならなかったのを見ると、この街のどこかに、まだうちの存在を信じてくれてはる人間はんが居はるんかも知れへんねぇ」

 

 そう言う朔夜さんの表情は嬉しそうに見えたが、なぜか、どこか悲しそうな雰囲気を感じた。


「……」


 それに会話の内容含めて、どう反応すればいいのか分からず、あたふたしてしまう。


「あたふたして、どうしはったん?」

「あ……いや……な、なんでもないです」

「そう? ……」


 すると、朔夜さんは外へ繋がる戸の方を見て、つぶやいた。


「雨……止まへんねぇ」


 外から聞こえる雨音は、衰えずザーザーと強い。あの勢いの雨に当たったら、かなり痛そうだ。


「そうや、1つ気になったんやけど……」

「……?」


 気になったって……なんだろ……。


「雨が降り始める前……さっき聞いた話だと、の子と会ったんどすなぁ?」


 めのこ……? あ、女の子か……。


「えっと……はい」

「その子、かいとはんを追いかけはったんやろ?」

「……? はい」


 な、なんだろ……それがどうかしたのかな……。


「森の中まで追いかけはったんなら、その子も森の中に入ったって事やね」

「……?」

「かいとはん、その子が森から出てきはるところは、見ましたか?」


 え……? 女の子が森から出てくるところ……。


 その瞬間、血の気が引いていくのを感じた。


「み……見てない……」


 あの時、森にはそれなりに深いところまで入っていた。もし、女の子があのまま俺を追いかけて、入れ違いになっていたら……。

 迷子になっていてもおかしくはない。


「や……でも、この街の子だから……」

「この街の子でも、迷子になる時はなってしまいますえ」

「そんな……」

「それに……どうやら、ほんまにその子はまだ森の中に居はるみたいやな」

「……え!?」


 すると、朔夜さんはこめかみに指を当てて目を閉じた。


「んー……どうやら、雨が強すぎて帰られへんみたいどすえ。木下で雨宿りをしはってます」


 そ、そんな……それって、俺のせい……?


 責任感を感じて、気分が重くなった。

 さっきまで自分もあの雨に打たれていたから分かる。きっと、あの女の子もすごく辛いはずだ。


「どうしはりますか? あの子の所へ行きます?」


 朔夜さんが俺の顔を覗き込んでそう言った。

 

「で、でも……魔術見られて……」


 あの女の子には、魔術を使っているところを見られてしまった。きっと、俺の事を妖怪だって思ってるはず……。


「それがそないに恐ろしいんどすか?」

「え……?」


 

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