220話 国ごとの神様
そうだったんだ……なんだか、神様の世界も大変なんだなぁ……。
それにしても、国神や土地神と言う神様は初めて聞いた。
テイルは確か、自分の事を神様みたいなものって言ってたし……。
「……朔夜さんから見たら、ているってどんな人なんですか?」
「ているはん?」
すると、朔夜さんは少し考えるような様子を見せてから答えた。
「土地神は、ているはんの事を『世界神』って呼ばせてもろてます。ているはんは、この国どころかこの世界を創ってくれはった方やさかい」
「世界を創った……」
テイルって、世界の魂を管理してるって聞いてたけど……この世界を創ってたんだ。
……やっぱりテイルって凄いなぁ。
「……そういえば、かいとはんが居はった国の宗教も、国神や土地神を信仰しはってるん?」
感心していると、朔夜さんにそんな事を聞かれた。考えてみると、王国ではあまり宗教について考えたことがない。
「え、えっと……」
よーく思い出してみると、1回だけ教会に入ったことがある。その後、あの聖騎士とかで色々大変だったけど……。
たしか……あの教会には、テイルの像があった。他にもあったけど、もうだんなだったかは覚えてない。
……と言う事は、王国だとテイル達を信仰しているのかな? そもそも、王国で国神と土地神って言う神様は聞いたこともない。
「僕のいた国だと、ているを信仰してました。他にも何人かいたけど……」
「え? そうなんどすか? 国神や土地神ではなく?」
「えっと……ぼ、僕は、国神と土地神って言うのは、ここで初めて聞きました」
そう答えると、朔夜さんはかなり驚いた顔をした。
「はぁ……そうなんどすなぁ。うちはてっきり、おんなじや思てました」
「……僕も、ちょっとびっくりしました」
「かいとはんのお国では、世界神はんを信仰しはってるんやね。……となると、きっと国神も土地神も居らんのやろなぁ」
「そ、そうなんですか……?」
それって、単純に知られてないだけなんじゃないのかな……?
単に知られていなければ信仰もされないだろう。
そんな俺の疑問を読み取ったのか、朔夜さんはそれに見合う答えを話してくれた。
「ふふふっ、そうや。……なぁ、かいとはん。土地神がどうやって生きてるか、考えておみ」
「い、生きてる……?」
え、神様って生きてるとか、そう言うものなの? で、でも神様がそう言っているんだから、そうなんだろうなぁ……。
「え、えっと……」
……どうやって生きてる……ご飯食べて……。
「ふふっ、普通にご飯食べて……とか、思ってはるやろ」
「う……」
図星を言われて思わず声が出る。
「もちろん違うよ。土地神はご飯を食べずとも、問題なく生きていられます」
「そ、そうなんですか……」
じゃ、じゃあどうやって生きてるんだろ……? お腹空かないのかな……。
「……答え合わせといきまひょか?」
「えと……は、はい……」
俺がそう答えると、朔夜さんはふふふと笑った。
いくら考えても分からない。なんだかちょっとだけ悔しい気もするけど、答えを聞こう。
「土地神はね、“信仰心”を糧に生きとるんどす」
予想の斜め上の答えに、俺は呆気に取られる。
「……し、信仰心……?」
「そうどす。別の言い方をすれば、“うちらの存在を信じる”って事にもなりますえ」
信仰心……存在を信じる?
し、信仰心……を、どうやって食べてるんだろ……? あれ? 食べるんじゃないのかな……? ん?
“信仰心で生きてる”ということが想像出来ず、混乱してしまう。
「かいとはんが混乱するのも、無理はありまへん。なんせ、うちですらその仕組みはよく分かりまへんからなぁ」
「えぇ……」
ほ、本人も分かってないんだ……。
「やけど……」
すると、朔夜さんは悲しそうな表情を見せた。今まで何度か悲しそうな表情をしたが、俺への同情を含めたそれらとは違う。
本当に、ただただ悲しそうな表情だった。
「仕組みは分かりっこあらへんけれど、その事実に変わりはありまへんえ」
「……」
「存在を信じてもらえなければ……うちら、土地神は消えてしまいます。つまり、人間はんにとって必要無くなってしまった土地神は、存在意義が無くなってしまうって事どすえ」
「そ、そんな……」
そうなんだ……思ってたより、神様の世界も大変なんだ……。
すると、朔夜さんは、静かに俺の頭の上へ掌を置いた。撫でるわけでもなく、ただ置いている。
それに遮られ、彼女の顔は見えない。
しかし、彼女が辛そうにしているのは分かる。なにか、俺にできる事はないかな……。
「それに、ここ数百年は土地神の信仰離れが多くなってはります。……って、少し愚痴っぽくなってしまいましたなぁ……」
声色から、彼女の苦笑いが頭に浮かぶ。




