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206話 謝らなきゃ 3



「ぅ……うぅ〜……?」

「あー……はいはい、怖かったわね」


 少しの間、ぼろぼろとなく泣く俺を美音さんは慰めてくれていた。頭を撫でたり、涙を拭いたり、ちょっとだけ抱っこもしてくれた。


「……そろそろ落ち着いた?」

「……」


 涙を拭いながらうなずくと、美音さんはほっとしたようにして俺を廊下へ下ろした。


「……本当に大丈夫? まだ泣いてるけど?」

「だ……大丈夫……」


 もうだいぶ落ち着いたけど、涙がまだ少し出てくる。それを両手で拭きながら答えた。


「そ。……それなら、泣き止んだところで申し訳ないけど、あんたがその魔術を見られた時の事を教えてもらいんだけど」

「ぁ……わ、分かった……」


 そうだよね。大事な事だから、ちゃんと言わないと……。


 まだ少し涙声ではあるものの、池であった事をなんとか美音さんに伝えた。

 彼女は少しの間考える様子を見せたが、あまり深刻そうな顔ではなかった。


「……多分、それあまり心配はしないくていいわよ」

「……え?」


 思いがけない言葉に、思わず変な声が出てしまった。


「……へ? ど、どういう事……?」


 そう聞き返すと、説明してくれた。


 美音さんと功さん、瀬音さんは昨日、この街について秀幸さんに話を聞いていたらしい。

 その話の中に、2日に1回森を含む街周辺を巡回しているというものがあった。


 50人ほどで巡回していて、あの池もその範囲内とのこと。そして、ちょうど俺達がこの国についた前日にも行っていた。


 その時、危険はない。つまり、妖怪はいなかったとの報告がされた。


「あんたの魔術を見た子がどんな風に周りに伝えたかは知らないけど、まぁその報告と妖怪の特徴が相まってあまり警戒はされないと思うわ」

「と、特徴……?」

「ええ、強力な妖怪ってのは大抵人間で言う大人の姿か単にでかい体、もしくは獣の姿をしているわ。有名どころで言えば、鬼とかぬえとかね。つまり、子供の姿で強力な妖怪はそうそう居ないって事よ」


 あ……そうなんだ。たしかに鬼とかって、体が大きいイメージがあるけど……。


「まぁ、一応警戒はされるでしょうけどせいぜい、数人が池の見回りにいく程度だと思うわ。巡回の次の日にぽっと出た小さい妖怪なんて、はぐれの河童かなにかとしか思えないからね」

 

 そっか……じゃあ、あまり心配しなくていいんだ……。


 それを聞いて、ようやく安心できた。美音さんがそこまで言うのならきっと大丈夫なんだね。


「分かった? だから、そこまで思いつめなくていいわよ」

「うん……分かった……」


 そう答えると、美音さんはポンポンと俺の頭を撫でた。


「じゃ、もう大丈夫ね」

「……はい」

「それじゃあみんなの所に戻る……前に、 もう1回約束しましょうか」

「ぁ………う、うん」


 すると、美音さんは右手を俺の目の前に出して、小指を立てた。


「……?」

「“指切り”よ。この国では約束する時にする……まぁ、おまじないのようなものね」


 指切り……たしかに日本でもおんなじようなのがあった気がするなぁ。やった事ないけど。


「ほら、あんたも小指出して」

「ぁ……えっと……」


 言われるがままに右手の小指を差し出すと、美音さんは小指同士を絡めた。俺も同じように小指を絡める。


「じゃあ、約束ね。“もうこの国で魔術や魔法は使わない”。……ほら、あんたも」

「も、もうこの国で……魔術と魔法は、使いません……」

「……うん」


 復唱すると、美音さんはうなづいた。

 

 そっか……指切りってこうするんだ。これなら、絶対に忘れたりしないね。


 感心していると、耳に美音さんの声が届く。かなり早口で。


「それと、“昨日の夜に見たことは誰にも言わない”」

「……へ?」

「“昨日の夜に見たことは誰にも言わない”」

「ぁ……えと、昨日の夜に見たことは、誰にも言いません……」


 勢いに押されて思わず復唱すると、美音さんは今度は歌い始めた。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます」


 小指同士を絡めた手を上下に軽く振ってリズムをとりながら、彼女は歌っている。


「指切った」


 歌い終わったと同時に指を離す。

 なんだか……いつもの約束とはちょっと違う気持ちになった。


「歌詞……怖い……」


 指切りってこんなに怖い歌詞だったっけ……? 考えてみれば、“指切り”って言葉自体も怖いけど……。


「本当に針千本も飲ますわけないでしょ。安心しなさい」

「は、はい……」

「あんたは今、1度失敗してちゃんと学んだはずよ。あんたは素直で……い、良い子なんだから、今度こそ約束を守れるって信じてるわよ」


 美音さんは立ち上がると、俺の手を引いて歩き始めた。彼女の表情を伺うと、なぜか少し頬が赤くなっている。


 俺の事を信じてくれてるんだから、今度はちゃんとしないと……。

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