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202話 ちょっと寂しかった


 ちゅんちゅんと、昔よく聞いたスズメの鳴き声で目を覚ました。視界には見慣れない天井が映る。


 そうだった……今は倭国にいるんだっけ……。


 部屋の中を見渡すと、ポチのために用意されていた布団が綺麗にたたまれていた。どうやら、ポチは先に起きたらしい。

 目を擦りながら布団から這い出る。


 みんなどこにいるんだろ……あ、布団畳まないと怒られるかも……。


 ボーッとしつつ畳まれた布団を参考にして、さっきまで寝ていた布団を畳む。

 ポチと比べたら少し変だけど……これでいっか。


 襖を開けて廊下へ出ると、俺がいた部屋以外の襖は全て空いていた。風通しを良くするためかな?

 向かいの部屋には綺麗に畳まれた布団が2つあった。功さんと美音さんの布団だ。


 しかし、そこには2人の姿はない。

 すると、右手の廊下の先から声が聞こえてきた。


「ポ……史郎君。そろそろかいと君を起こしてきてくれるかい」

「分かりました」


 廊下の先の曲がり角からポチが姿を現し、こちらへ歩いてくる。


「おはようかいと、よく眠れたか?」

「あ……うん、おはよう。ポ……えと、しろうお兄ちゃん?」


 一瞬びっくりしたけど、そういえば今ポチは俺のお兄ちゃんって設定だったっけ。気をつけないと……。


「功さん達が朝食を用意してくれたんだ。ほら、行くぞ」


 ポチはそう言うと、俺の手を握って歩き始めた。


「……」


 なんだか……いつものポチと違って新鮮だなぁ。お兄ちゃんか……もひ本当にお兄ちゃんがいたらどうなるんだろう。


 ポチの顔を見つめながら考える。


 ……きっと、頼もしかったり、かっこよかったりするんだろうなぁ。

 実際に今、ポチがこんな風に接してくれてて嬉しかったりする。普段のポチが悪いってわけじゃないんだけど、やっぱり……。


「……ちょっとこっちへ」

「へ? ……わっ」


 そんなことを考えていると、ポチが突然方向を変えて歩き出した。そのまま屋敷の端の方へ足早に歩いていく。


 そして、誰もいない部屋へ入るや否や、ポチがひざまずいた。


主人様あるじさま、私が貴方様へ不敬な態度を取っていることへ不満を感じておられるのならば、謝罪します」

「……え?」

「他者に怪しまれぬように止むを得ずではあるものの、主人様へのこのような態度は本来許されません。大変申し訳ありません」

「ぇ……ぁ……」


 ポチ……な、何を言ってるの? 俺は……ポチがお兄ちゃんみたいで……嬉しかったのに……。

 それを伝えようと口を動かすが、声は出なかった。

 

「そっか……」


 ……そうだよね。ポチは仕方なくお兄ちゃんを演じてたんだ。勝手にそんなこと思ってても、ポチには関係ないか……。


 ……ちょっと、寂しいな。


「……うん、ごめんね。大丈夫だよ」

「……主人様、不満があればなんなりと」

「ううん、大丈夫だよ。それに、怒ってなんてないから、気にしないでね」

「ありがとうございます」


 なんだか寂しいけど、こっちが勝手にそう思ってただけだし……これ以上は迷惑になっちゃうから、黙っておこう。


「して、主人様。もう1つよろしいですか?」

「え? う、うん……なに?」

「昨日の件、まだ功様にも美音様にもお話ししていないようですが……」

「……昨日の件?」


 昨日……? なんのことだろ……昨日あったことといえば、夜の美音さん事だし……。


「……あ」


 思い出した。


「魔術をみられたこと、まだ話してない……」


 わ……忘れてた……すごく大変なことなのに……。


「ぁ……ど、どうしよう……? ああ……どうしよう……!?」

「主人様、まずは落ち着いてください」


 ポチに落ち着くようなだめられるが、呼吸はだんだんと荒くなっていった。


 ど……どうしよう……な、なんで俺、こんな大事な事忘れてたの!?


 『魔法や魔術を使わない』と美音さんと約束してた。

 なのに、誰もいないからと約束をすぐに破って……それに加えて、それを見られてしまうという最悪な事まで起きてしまったのだ。


「ぅ……ぁ……」


 そのことを思い出した途端、ポチのおかげで1度は消えた“約束を破った”事への罪悪感や恐怖が再び押し寄せてきた。

 いや、むしろ昨日より強い罪悪感や恐怖を感じる。

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