197話 ツンデレの真実 2
「まぁ……さっきも言ったけど、その度にこうなっちゃうんだけどね」
「そうなんですか……」
「初めてこうなったときは、ほんとに驚いたね。まさか酔っぱらうと幼児化するなんて、思いもしなかった」
たしかに……現実にそんな人がいるなんて、考えたこともなかった。
「ただね……いつもそうなんだけど、朝起きたら美音はこのことをまったく覚えていないんだ」
「……へ?」
「よくあるだろう? 酔っぱらって、その時羽目を外したことを、翌日にはまったく覚えていないって話」
……読んでたラノベにたまにそんな展開があった気がする。あと、身に覚えがあるような気もする。
「美音は見事なまでになにも覚えてないからね。だから、美音が正気に戻っても、決してこの事を話してはだめだよ」
「……な、なんでですか?」
「以前に1度だけ、この事について聞いてみたんだ。そしたら、「そんなわけないでしょ!」って怒られてしまってね」
「あー……」
なんだか、容易に想像出来てしまった。理不尽だけど、確かにめちゃくちゃ怒りそう……。
「だから、美音がこうなった時はすごくハラハラするんだよね。だから、出来ればあまりお酒は飲んでもらいたくないんだけど……」
功さんは、自分の膝に頭を乗せて寝る美音さんを見て苦笑いした。
……あ、もしかして、池で美音さんがお酒飲むって言った時、変な反応してたのそういう事だったのかな。
「だから、今はもう普段の美音と酔った時の美音は別人だって考える事にしたんだ。そうすれば、いくらかは気が楽だからね」
「そうなんですか……」
「うん、普段は美音。酔った時は昔の美音って感じでね。まぁ結局は美音なんだけど」
苦笑いで話す功さん。
なんだか、美音さんみたいな性格って、本人も周りも色々と苦労するんだなと思った。
ー 数時間後。
「よし、それではそろそろ片付けるか」
料理を全て食べ終え、宴会も終わろうとしていた。秀幸さんが自分の食器をお盆に乗せて、片付けの準備を始めた。
しかし、美音さんは功さんの膝に縋り付くようにして眠っている。それに加え、瀬音さんまで酔っぱらって寝てしまっていた。
「ふむ、彼女らは酒に弱いようだな」
「そうなんですよ……」
「功君はその状態では動けないな。片付けはいいから、君は彼女らを布団へ寝かしてやりなさい」
そう言うと秀幸さんは、その場の全員の食器を片付け始めた。
どうしようかと様子を伺っていた俺は、突然の出来事に戸惑ってしまう。
「ぁ……ぁ……ありがとうございます」
「気にしなくて良いぞかいと君。君も眠いのだろう?」
「ぅ……」
実を言うと、先ほどからずっと眠気に襲われていた。でも、片付けとかしないといけないから、頑張って起きていたのだ。
「私が片付けます。功さん、すいませんが、かいとも連れて行ってもらえませんか?」
「ああ、分かったよ。ほら、かいと君行くよ」
「は……はい……」
ポチが立ち上がり、お盆に食器を乗せ始めた。俺は、美音さんをおんぶした功さんに手を引かれる。
手を引かれてついた先の部屋には、2人分の布団が敷かれていた。多分、俺とポチのだ。
「じゃあ、君はこの部屋で休んでね」
「……はい」
「俺達は廊下を挟んだ向かいの部屋で休んでるから、何かあったら来てね」
「……」
もはや返事をする元気もなかった俺はこくりとうなずき、早々と布団へ潜りこんだ。
布団は独特な香りがしている。多分、これは布団が入ってたタンスの匂いだ。
あ、でもこの国はタンスって言わないか……なんだろ……押し入れ?
そんな事を考えているうちに、意識はプッツリと切れ、寝てしまった。
ー さらに数時間後
「んん……」
下半身に違和感を覚えて目が覚めた。めちゃくちゃおしっこ漏れそう。
「ト……トイレ……」
体を起こし、布団から出る。横を見ると、 もう1つの布団にポチはいなかった。
もしかして、まだ片付けをしているのかな? って、それどころじゃないや。
足早に部屋を出て、トイレへ向かう……が、トイレの場所が分からない。
……この状況、かなりまずい。




