196話 ツンデレの真実 1
「プッハァッ!」
最後のとっくりを力強く地面に置いたと思えば、間髪入れずに料理をガツガツと食べ始める。それも凄い勢いで、みるみるうちに食器が空になっていく。
そして、最後に口の中へかき込んだ味噌汁をゴクンッと飲み干した。
「……み、美音?」
その様子を驚いた表情で見ていた功さんが、恐る恐る声をかけた。すると、美音さんがゆっくりと顔を上げた。
その顔は真っ赤、目はとろんとした半開きで明らかに普通ではない。
だ……大丈夫かな?
「……ぐすっ……うああああああああん!!」
「!?」
次の瞬間、美音さんの泣き声が響き渡った。
……え!? あの美音さんが!? 泣いた!? こんな大声で!?
「あー……やっぱり酔っぱらったか」
そう呟くと功さんが美音さんのもとへ歩み寄った。
「ほら美音、大丈夫だから」
「うぅ……うああああああ……」
功さんが美音さんの方へ手を回すと、なんと彼女は彼の胸にすがりついて泣き始めた。そして、その彼女の背中へ手を回してポンポンと優しく撫で始める。
……信じられない。
「ぐすっ……ぅぅ……おじいちゃん……」
「よしよし、大丈夫だから」
え? ちょっとまって? 頭が追いつかないよ? ほら、ポチまで動揺した顔してるよ。珍しっ。
「え……あの、こ、功さん……?」
「なんだい、かいと君」
「み、美音さん……」
すると、功さんは少し苦笑いをした後、答えてくれた。
「いやー……ちょっと信じられないかもしれないけど、美音って酔っぱらうと……なんというか、めちゃくちゃ甘えてくるようになるんだよね……」
「えぇ!?」
「ちょっと違う気もするけど……“幼児化”みたいな感じなのかな?」
そんなことある!? 現実でそんなことあるの!?
……いやでも確かに、今の美音さんの様子はどちらかと言えば子供のような印象を受ける。
すると、瀬音さんと秀幸さんも話し始めた。
「王国でも、たまにお酒を飲むことがあるんですが、その度に功さんに甘えてましたね」
「先生から話だけは聞いていたが、相当功君に懐いていたらしいからな。うむ、酒は人の本性を表すとはよく言ったものよ」
え? 瀬音さんはともかく、秀幸さんなんでそんなに驚いてないの? もしかして、倭国じゃよくあることなの?
「うぅ……功君」
「なんだい?」
美音さんが! 美音さんが「功君」って言った!!
「おじいちゃん……」
「大丈夫だよ。それこそ、俺たちこそ弱気になっちゃダメだ」
「……」
こくりとうなずく美音さん。
功さんに頭を撫でられている彼女の表情は、どこか安堵したような表情にも見える。ほんとに普段の彼女からは想像もつかない。
「……落ち着いたかい?」
「……うん」
「気にしなくて良いよ。それよりも、あんなに一気に食べて大丈夫かい? お腹痛くはない?」
「……大丈夫よ……」
それからは、酔っぱらった美音さんを功さんがあやしつつ、食事の時間が過ぎていった。
それにしても、美音さんって酔っぱらったらああなっちゃうんだ……。なんだか、イメージと違ってびっくりしたなぁ。
いや、でもあれだけ典型的なツンデレなんだ。酔っぱらったら甘えん坊になるとか、ベタな性格でもおかしくはない……のかな?
……俺も、お母さんによく甘えるし、そこまでおかしいことじゃないのかな?
……だめだ、よくわからなくなってきた。
ふと見ると、美音さんは功さんの胸に縋り付いたまま寝息を立てていた。その目尻には涙が見える。
「……寝ちゃったか」
彼女の髪をかきあげ、眠ったのを確認した功さんは「ふーっ」と一息ついた。
横へ目を向けると、他の3人は王国の話や俺とポチがいたと言う設定の村の話で会話を楽しんでいた。
今のうちに、美音さんのことを聞いてみるのも良いかもしれない。
「こ、功さん……」
「なんだい?」
「美音さんって、お酒を飲むといつもそうなるんですか?」
「うん、そうだよ」
すると、功さんはこの件に関して話してくれた。
「美音は普段全くお酒は飲まないんだけどね。今日みたいになにか辛いことがあった時と、なにかめでたいことがあった時だけ、すごい量を一気に飲んでしまうんだ」
辛い時? もしかして、やけ酒ってやつかな? あ、でもめでたい時は違うのかな?
「まぁ……さっきも言ったけど、その度にこうなっちゃうんだけどね」
「そうなんですか……」
「初めてこうなったときは、ほんとに驚いたね。まさか酔っぱらうと幼児化するなんて、思いもしなかった」
たしかに……現実にそんな人がいるなんて、考えたこともなかった。




