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195話 初めてのご飯(入国後)


 日が暮れて、あたりはすっかり暗くなってきた。

 今俺は、ふすまの影から料理が屋敷内へ運び込まれているのを見ている。


 風呂敷を持った人達が10人くらい。畳の上に置かれた黒くて小さい机に、料理を並べていく。

 それを秀幸さんが指示していたけど、どうも気になることがある。


 皆んな、秀幸さんの前だと笑ってるけど、部屋を出ていく時、妙に険しい顔になる。

 ……何か嫌な事でもあったのかな?


 しばらくして、6人分の豪華な和食が並べ終わった。それらを運んできた人達はもう街へ戻ってしまっている。


「よし、食事の用意ができたぞ」


 秀幸さんの声に応じて、他の4人が席へ着いた。慌てて俺も席に着く。


「では」


 秀幸の声に合わせて皆んなが手を合わせる。それを見て、俺も手を合わせた。

 「いただきます」って言おうとしたけど、この国はそれを言わないんだっけ。危なかった。


「それでは、功君達の無事を祝って」


 全員で料理を食べ始める。

 それからは、功さん達の思い出話だったり、近頃街で起きた事などの報告会になった。

 余計な事を言いそうだから、基本的にずっと俺は黙ってることにした。


「さ、功君」

「ありがとうございます」


 秀幸さんが功さんのおちょこにお酒を注いでいく。普通だったら功さんが注ぐらしいけど、今日は特別らしい。


 美音さん、瀬音さん、ポチのおちょこにも続いてお酒が注がれていく。

 俺はお酒が飲めないからお茶を出された。さっき飲んだ玄米茶かな?


「……あーっ、倭国のお酒は美味しいですね。王国のお酒とは一味違います」

「年齢の関係で初めて飲みましたが……なんだか落ち着きます」

「うむ、他国の酒は1度だけ飲んだことがあるが、やはりこの国の酒には勝てん。史郎君はどうだ? 口に合うか?」

「もちろんですよ。村ではこんな美味しい酒、飲んだことありません」


 そんな会話をお茶を飲みながら聞いている。

 

 お酒……なんだか、1回だけ飲んだような気がするけど、よく覚えてないなぁ。まぁ、きっとお酒は飲ませてもらえないだろうし、別に良いけど。


 目の前にある料理はどれも初めて見るものばかりだ。多分日本料理ってやつだと思う。倭国じゃ“日本”料理って呼ばないだろうけど。

 どれも綺麗で、よだれが垂れそうなほど美味しそうだ。


 でも、なんだか食欲が沸かない。原因は分かっている。


「……」


 ちらりと、顔を上げてその“原因”へ目を向ける。

 そこには、お酒の入ったおちょこを手に持ったまま、俯いて一言も喋らない美音さんの姿があった。

 とても心配で、食欲が沸かない。


 総一郎さんの一件で、すっかり元気をなくしてしまった。美味しそうな料理を前にしても、ただ一点を見つめているだけだ。


「……美音」


 そんな美音さんへ、功さんが声をかける。かれは食事の準備の時からずっと、彼女を励ましていた。

 一旦はそっとしておく事にしていたが、やはり心配みたいだ。

 瀬音さんと秀幸さんも心配そうに彼女を見ている。


「……なによ」


 俯いたまま、美音さんがかすれた声をだす。


「総一郎さんはきっと大丈夫だよ。誰よりも強くて頑丈なのは知っているだろ?」

「……ええ」


 声がかすれたままだが、少し大きくなった。


「それにさ、落ち込んでいるままじゃ、総一郎さんは絶対に喜ばないからさ、元気出してよ。ね」

「……」


 美音さんは再び黙り込んだ。しかし、その表情は先ほどと違い、なにか迷っているようにも見える。


 と、思った瞬間、突然表情がキッと硬くなる。そして、手に持っていたおちょこのお酒を飲み干した。


「み、美音?」

「もっとお酒をちょうだい」

「えっ」

「……ほら、好きなだけ飲め。まだまだ酒はあるからな」


 秀幸さんは十数本のとっくりがのったお盆を美音さんの横に置いた。

 すると、彼女は凄い勢いでお酒を飲み始めた。十数本あったとっくりの全てがあっという間に空になる。


「プッハァッ!」


 最後のとっくりを力強く地面に置いたと思えば、間髪入れずに料理をガツガツと食べ始める。それも凄い勢いで、みるみるうちに食器が空になっていく。


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