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181話 コウの過去 44


 意識を失いながらも苦しむ美音の呻き声、そして全身から伝わってくる痛みを耐え続け、ひたすら走り続ける。

 

 そして、ついに木が開けた場所へ出た。


「っ……つ、着いた……!」


 目の前には、見覚えのある家屋が何軒か並んでいる。その隙間からは何度か通った事のある街道が見えた。


 しかし、“ようやく街に着いた”、そう思った矢先、目の前の家屋が突然轟音と共に崩れた。


「うわぁ!?」


 驚き、尻餅をつく功。ハッとし、美音をその場へ寝かせてから状況を確認する。


 崩れた家屋の残骸の上には、猿にも虎にも見える妖怪が仰向けに横たわっていた。口からは鮮血とだらんと垂れる舌が見える。


 そして、その妖怪の首元には1人の人影。勢いよく妖怪の首に刺さっていた刀を抜いた。

 

「……総一郎さん!?」

「むっ……まさか、功くんか?」


 その人影は総一郎だった。

 総一郎は功に気がつくと、ひらりと妖怪の上から飛び降り、2人の元へ駆け寄ってきた。


「一体何故こんなところに……」

「すみません! 今はそれより美音ちゃんを!」


 総一郎の手を引っ張り、美音へ注意を向けさせる。


「むっ……これは……」

「森の中で河童と鬼に襲われて……なんとか逃げ切ったんですが……」


 功の言葉を聞きながら、真剣な眼差しで美音の容態を見る総一郎。


「……そうか、大変だったな。じゃが、もう安心じゃぞ」


 そう功へ語りかけつつ、美音の胸や腹を時計回りに数回撫でた。

 すると、苦しそうだった美音の呼吸が、先ほどよりも楽そうに見える。


「なにを……?」

「いやなに、わしの気をこの子に移して、損傷した筋肉や骨の補強をしただけじゃ。応急処置ではあるが、きちんとした治療も後で施す。ひとまずは安心じゃぞ」


 それを聞いた功は脱力し、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。


「よ……良かった……」

「何があったのかは分からぬが、よく美音を守り通してくれた。ありがとうのう」

「はい……」

「功くんもボロボロじゃな。よし、ちいと待っとれ」


 そう言うと、総一郎は功の右半身をゆっくりと撫でた。

 すると、今まで感じていた痛みや怠さが軽くなったように感じる。


「すまんが、今はこれで我慢しておくれ。彼奴等きゃつらとの決着をつけねばならん」

「彼奴等? ……っ!?」


 功の目に飛び込んできたもの。それは、総一郎が倒した猿にも虎にも見える妖怪、“ぬえ”の死体が横たわる残骸の左右に、生きたぬえが2匹たたずみ、こちらを睨み付けている。


 そして、倒れたぬえの前には大きな鬼の姿があった。


「わしらに背ば向けて……たいぎゃ(随分と)余裕そうばい。羅刹」

「……なに、お主らよりもこの子らの方が大切じゃからのう。現に、お主らにまだわしは倒されておらんからな」

「っ……! いつまでも上手ういくて思わん方がよかぞ」


 2人の会話で、功は総一郎が今どんな状況下にいるのかを理解した。よく見ると、総一郎の体には所々負傷した箇所がある。


「総一郎さん……!」

「安心してよいぞ。彼奴等如きには負けんからのう。さてと……」


 総一郎は功の頭を撫で、立ち上がり怨京鬼おんぎょうき達へ刀を構えた。


「功君。すまぬが、美音を抱えてここから離れてくれ。巻き込まれんようにの」

「は、はい。分かりました」


 言われた通りに美音を抱え上げる功。その時、先ほどまでが嘘のように美音の体は軽々しく持ち上がった。

 急いでその場を離れ、今さっき抜けてきた森の木陰へ隠れる。

 

 それを横目で確認した総一郎は、余裕を感じさせる口調で怨京鬼おんぎょうきへ話しかけた。

 

「しかし、あの子らが離れるまで手を出さんとは、意外とお主らも優しんじゃのう?」

「黙れ。あれだけん殺気ば放っときながらなんば言いよる」

「おや、どうやら怖がらせてしまったようじゃな」


 怨京鬼おんぎょうきの眉がピクリと動く。

 それと同時に、ぬえが2匹同時に総一郎へ飛びかかった。


 ぬえ達の巨大な前足が総一郎へ振り下ろされる。しかし、それを総一郎はゆっくりとした動作で躱した。

 そのまま流れるような動きで、刀が右がにいたぬえの腕に深々と沈み込んだ。


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