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174話 コウの過去 37


言葉にならない叫び声と共に、両手で掴んだ石を河童の頭へ叩きつける。返り血が功の体を赤く染めると同時に、断末魔を上げていた河童は動かなくなった。

 その様子を見て警戒したのか、周囲の河童の動きが止まる。


 一難去ったことを確認し、再び美音の蘇生へ戻ろうとした時だった。


「ぅ……かはっ……うぅ……」


 仰向けに寝る美音が息を吹き返した。

 

「美音ちゃん!!!」

「うぅ……こ……君……?」


 うっすらと開いた目が、功へ向く。彼女とあった功の目からは、熱い涙が溢れ出した。


「よ……良かったぁ……良かったぁぁ……」

「あれ……? あ……そっか……森の中……」


 状況を思い出した美音を抱きしめ、泣きじゃくる功。そんな彼を見た美音は微笑み、弱々しくあるものの彼を抱き返す。


「功君……無事で……良かった……」


 微笑み、そう呟く。しかし、周囲の状況を認識した彼女が小さく悲鳴を上げた。


「ひっ……!?」

「あ……!」

 

 その声で我に帰った功は、体を離し彼女の前に立つ。

 警戒していた河童達は、再び2人との距離を縮めている。どうやら、仲間が3匹やられた今でも、2人を狙っているようだ。


「逃げなきゃ……うっ!? い、痛い……」


 立ち上がろうとした美音が、胸を押さえてうずくまる。

 奇跡的に息を吹き返しても、心臓マッサージによる体へのダメージは消えない。確実に肋骨は折れてしまっている。

 今の美音は、絶対安静が必要な状況だ。


「美音ちゃん、そこで楽にしてて」


 そんな美音へ、功が穏やかに言った。


「で、でも……う……」

「安心して……美音ちゃんは、必ず守るから」


 美音へ背を向けたまま、功がゆっくりとしゃがむ。そして、河童の頭にめり込んでいる木刀を拾い上げた。

  

 ゲーッ! ゲーッ!


 開戦のゴングのように、響き渡る河童の不快な鳴き声。その鳴き声に背中を押されたのか、河童達が一斉に襲いかかって来た。


「すぅー……ふぅー……」


 落ち着きのある呼吸を繰り返し、ゆっくりと動く腕は上段の構えをとった。


「守るって……誓ったんだ」


 先頭の位置にいた河童が、牙の揃ったくちばしを開けて功へ飛びかかった。しかし、その牙が功の肉体へ突き刺さる前に、その頭部へ木刀が叩き落とされる。


 そのすぐ後ろの位置にいた河童は、右手を振り上げ飛びかかる。功は素早く反応して叩き落とした木刀を、河童目掛けて振り上げた。

 木刀が顎に命中した河童は縦に数回転し、地へその身を沈める。


 功が手に持つ木刀はしなやかに右へ左へ飛び回り、次々に河童達を迎撃していく。


「す……凄い……」


 そんな光景を見て、美音の口からは思わず称賛の言葉が漏れる。


 功が現時点で使える仙術は2つ。“硬気こうき”と“化勁かけい”だ。

 硬気こうきは、手に持った物を気で覆い、より頑丈にする仙術。

 化勁かけいは、気の流れを使って衝撃を受け流す仙術。


 どちらも初級ではあるが、だからこそ基本となる術。侍は皆初級の術を使い、そこから応用や別の術を組み合わせたりするのだ。


 それに対して功は、応用や組み合わせはまだ未完成である。しかし、それぞれの術の扱いは上手い。


 木刀を硬気で頑丈にし、河童の頭蓋を叩き割る。

 捌き切れない攻撃は化勁で受け流し、ダメージを最小限に。

 単純な攻撃ではあるものの、次々に河童を屠って行った。


 だが、上手くいっていたのはここまでだった。


 不運だったのは、この場所が大きな川のすぐ近くだったこと。そして、河童は群れをなす妖怪だったこと。


「はぁ……はぁ……くそ……ふぅー……」


 呼吸を整え、周囲の状況を確かめる。河童の数は減るどころか増えているように感じた。いや、確実に増えている。


 功の周りに横たわる河童の死骸が十数になる頃には、新たに川からやって来た河童の数が数十へ増えていた。


 このままではいずれ数に負けてしまう。今の今までは上手く立ち回れていたが、それでも無傷というわけではない。

 さらに河童の数が増えることがどういう意味か、考えるまでもなかった。


 しかし、逃げようにも美音は激しく動かせる状態ではない。それが、“逃げる”という選択肢を遠のかせていた。


「……っ!? なんだあいつ……」


 悩む功へじりじりと距離を積める河童の中に、1匹様子の違う影があった。月明かりに照らされたその姿は、周囲と同じ河童ではある。

 しかし、その体躯は比べ物にならない。


 今まで相手して来た河童は約60〜70センチメートルほど。しかし、その大きな河童は1メートル半以上ある。

 体格的には功にも引けを取らない。むしろ、筋肉量ではあちらの方が優っている。

 

「あれが……この群の親玉かな……」


 木刀を構える構える両手に力が入った。その手を伝って汗が地面へ落ちる。

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