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171 話 コウの過去 34


 余裕を感じさせる口調でそう言う総一郎に対し、怨京鬼おんぎょうきは肩で呼吸をし、その怒りをあらわにしていた。


「にしても、わしは羅刹を名乗った記憶はないんじゃがなぁ」


 そんな怨京鬼おんぎょうきへ、総一郎は何食わぬ顔で話しかける。


「さて……お主が連れてきた妖怪共はほとんど駆除した」

「……」

「で……まだ何かあるのかのう? 無いのなら……ここでお主を切り捨てて終いじゃ」


 総一郎の刀の切っ先が怨京鬼おんぎょうきへ向く。怨京鬼おんぎょうきはその切っ先を見つめながら口を開いた。


「……確かに仲間はほぼやられてしもうた。わしがきさんら人間ん戦力ば、甘くとったのが悪うかった」

「そうじゃな。ここの住人はわしが直接指導しておる。過去にお主が戦ったみやこの者達とは比べものにならんぞ」

「羅刹だけば警戒しとったが、他ん人間もここまでとは……怒りで周りば見えんとったごたる」

「うむ。じゃが、道場がぬえに襲われたと聞いた時は、流石に肝を冷やしたぞ?」


 余裕を見せながら話す総一郎と、地面を見つめながら話す怨京鬼おんぎょうき

 すると、怨京鬼おんぎょうきがゆっくりと顔を上げ、今度は空を見つめだす。


 そして、怨京鬼おんぎょうきが自分の腰の大きな刀へ手をかけると同時に、総一郎の目が鋭くなった。


「おいぬし達、出て来え」


 刀に手をかけた怨京鬼おんぎょうきがそうどこへともなく声をかけると、総一郎の周囲の家屋から軋む音が鳴り出した。


 そして、そこから現れたのは4体のぬえ。家屋の屋根から総一郎を見下ろしている。


「ふむ……さきに戦ったぬえの方が大きかったのう」


 しかし、総一郎はその4体のぬえへ目を向けると、余裕を見せながら呟く。


「……あいつとは長か付き合いやった。気さくで良かやつやった」

「……」

「……だが、自分の子ば殺された怨みで変わってしもうたばい。仕返しをばと、きさんら人間ん子ば殺す事ばっかり考ゆるごつなった」

「なるほどのう。つまり、お主の言うことを聞かずに先走り、道場を狙ってわしに返り討ちにあったと」

「……っ……」

「怒りで我を失っておったから、真正面から合わすだけで終わってしまったぞ」


 嫌味ったらしく言う総一郎を、ギロリと睨みつける怨京鬼おんぎょうき。刀を握りしめる右手に力が込められ、柄が軋む音が鳴る。


「……わしは反対ば押し切り、郷ば捨て、羅刹ば怨む同胞ば奮い立たせこけ来た。だが、わしはそん同胞ば死なせた……今更帰る場所も、帰るべき理由もなか」

「……」

「逃ぐるような事はせん。だが、きさんば殺した後に他ん人間も殺すとなれば、流石にわしもただではすまん」


 

がゆっくりと刀を抜く。その刀は真っ黒に染められ、その大きさは成人男性ほどもある。


 そして、その落ち着いていた表情は文字通り鬼のように豹変し、怒声と共に髪が逆立った。


「ならばせめて、最期に四天王と呼ばれた意地ば見せよう! そして、共に生きた四天王ん仇ば打ってから死んで見せよう!」

「……来るか!」


 怨京鬼おんぎょうきが抜刀した刀の切っ先を総一郎へ向け、走り出した。それと同時に4体のぬえも総一郎へ飛びかかる。

 それに対して総一郎は右手にあった刀を両手で構えた。


「覚悟せぇ羅刹!! 刺し違えようとも、そん首ば獲ってやろう!!」


 怨京鬼おんぎょうきの怒声と共に、鉄が激しくぶつかり合う音が町中に響き渡った。


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