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165話 コウの過去 28


 今の街がどのような状況か

は分からない。事前に対策ができているのか……。

 いや、今日の昼間に感じた変化が妖怪の襲撃に関係しているのならば、全く対策できていないという事はないだろう。


 しかし、それでも今日1日だけだ。1日で十分かと聞かれれば、そうではないだろう。

 彼女の言う10日前に知らせてもらえれば、十分に対策できたはず。

 

『……功さん。以前に私が“木霊は妖怪と人間の中立”、どちらの味方もしないと言ったのは覚えていますか?』

「お……覚えていますけど……」

『その言葉の通りです。事前に貴方に今日の襲撃のことを教えれば、それは人間へ味方したことになってしまいます』

「っ……で、でも……」


 彼女の言う事は理解できる。しかし、理解した上での不満が生まれた。


「どうして……俺達にんげんの味方をしてくれないんですか?」

『……どう言う事でしょうか?』

「前に行ったじゃないですか……“人にとって妖怪とは、子を拐い、人を喰い、祟りをかけると言う存在”だって」

『ええ、確かに言いました』

「それなら、どうして人間の味方をしてくれないんですか? 妖怪は言わば“悪者”みたいな存在なんじゃないんですか?」


 妖怪は意味もなく人間を襲う生き物。見方を変えれば、そんな妖怪達の味方をしているようにも見える華奈。

 そう思ってしまった功の華奈へ対する不信感は、さらに増幅した。


 しかし、華奈は変わらぬ様子で、静かに功へ問いかけた。


『では……功さん。なぜ妖怪は人を襲うのか、知っていますか?』

「……いや……理由なんてあるんですか?」

『物事の裏には、必ず理由があるのですよ』


 華奈はそう言うと、ゆっくりと功へ近づいて行った。


『では、なぜ妖怪が人を襲うのか……教えてあげます』


 

 

 ー 領地内。


 家屋が連なる大きな街道に人や妖怪の姿は1つも無い。

 しかし、数多くの家屋が重い地響き揺らされ、軋む音を立てている。


 ズズンッズズンッ……ズズンッ


 その地響は不規則に鳴り響き続けていた。


「武器を持てる者は前へ! 戦えぬ者は早く退くんだ!」

「負傷者は下がれ! なんとしても……ぎゃっ!」


 地響の中に、微かに複数人の男性の声が混じっている。それは、領地中心にある道場からのものだった。地響もそこから聞こえてくる。


 道場の門や塀は崩落し、建物も半壊してしまっている。

 普段の道場の面影は残っておらず、石畳は砕け、踏み固められていた土は、そこら中に穴が見える。

 

 そして、再び鳴り響く地響と同時に地面に叩きつけられた物により、新しい穴が次々に作られている。


 そこには数十人の人影。そのなかに、総一郎が避難場である道場の指揮を任せた秀幸の姿もあった。


「っ!! ぐぁあ!!」


 衝撃で吹き飛ばされ、デコボコの地面をゴロゴロと転がる秀幸。ボロボロになりながらも、彼は地面に刀を突き刺し立ち上がった。


「秀幸さん! 大丈夫ですか!?」

「心配はいらぬ! 今は目の前の敵に集中せい!」


 そう叫ぶように言い、地面から抜いた刀を構える。

 その目の前には、大きな四足歩行の影があった。


「ったく……まさかこんなのが攻めてくるとはな」


 その影は、猿の顔、狸の胴体、虎の手足、そして蛇の尾。

 “ぬえ”だ。

 そのぬえは、斬りかかる人々を尾や手足でなぎ払い、その合間にやたらと辺りを見回していた。


「……コダ……」

「む……!?」


 辺りを見渡していた猿の顔から、しゃがれた声が聞こえた。


「ドコダ……」

「……ぬえが何か探し物か? だとすればここは場違いであるぞ」


 何かを探している様子のぬえに、軽い口調で話しかける秀幸。すると、それに反応したのか、猿の顔がゆっくりと彼へ向いた。


「場違イナドデハ無イ。ココニ居ルノハ分カッテイル」


 ぬえの右前足がゆっくりと浮き、鋭い爪が向けられる。


「幼子ヲ全テ差シ出セ。サスレバ、ワシハココカラ去ロウ」

「なっ……!?」


 しゃがれた声で告げられた要求。それを聞いたと同時に、刀を握る手に力が込められた。


「ふざけるなっ! 貴様ら妖怪は意味なくして……平然と無抵抗の子を拐い、殺し、喰らっている!」


 秀幸の怒鳴り声が響き渡る。それをぬえは何もせずに聞いていた。


「子を差し出せだと!? つい先日も子が殺された! 貴様ら妖怪によってどれだけの無抵抗な子が殺されたか! これ以上犠牲を出す事など、許されるものか!!」


 それに続く様に肯定の声がいくつも上がる。


「黙レエ!!」


 しかし、それに覆いかぶさる様にぬえの怒号が響き渡った。


「我ラガ子ヲ失ウ思イヲ理解出来ヌダト……!?」

「……?」

「一方的ニ子ヲ殺シテイルダト……!?」

「貴様……何を言っている?」


 俯き気味だったぬえの顔が勢いよく秀幸へ向けられる。


「貴様ラ人間ハ……我ガきょノ山ヲ焼キ討チシ、我ガ子ラヲ殺シタ……」


 ぬえの目から液体が流れ始めた。しかし、その目は真っ赤に充血し、怒りを感じさせる。


「我ガ子ラヲ殺サレタ怨ミ、今コソ晴ラサンッ!」

「っ!! 気合を入れろ! ここを通すな!」


 再び暴れ出したぬえへ向かい、男達は一斉に斬り掛かって行った。




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