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155話 コウの過去 18


『私は御神木です。もう少し細かに説明をさせていただくと、正しくはこの御神木に宿る精霊……“木霊こだま”です』


 光の球はふよふよと浮き、功の目の前を移動している。そんな光の球を、彼はただ見つめるだけだった。

 

『どうされました?』

「あ……いや……その、なんていうか……」


 突然知らされた、“目の前”にいた大きな存在。功が戸惑うのも無理はないだろう。



「……もう大丈夫です。すいません」

『いえ、こちらこそすみません。お話しが唐突すぎたことを反省します』


 少し時間をかけて、頭の整理をした功。その甲斐あり、この状況を理解できた。


「つまり、あなたは御神木の“木霊こだま”なんですね」

『ええ、先程も言った通り私は“木霊こだま”です』


 木霊といえば、思い当たるのは山に向かって大声を出した時にそれが反響する“やまびこ”という現象だ。


 しかし、彼女の言葉では“御神木に宿る精霊”と言っていた。やまびことは関係は無いのだろうか。


「えっと……俺の知っている“こだま”と少し違う気がするんですが、あなたは……」

『いえいえ、私は一般の木霊達となんら変わりありませんよ。唯一違うのは、少しばかり偉業を成し遂げたことでしょうか』


 若干のドヤりを感じさせる口調で彼女は言う。


「偉業? ……って、なんですか?」

『そうですね……その内容はともかく、結果として私は木霊達の親……いえ、お殿様のような存在になりました』


 お殿様……? つまり、1番上の立場ということか。


『木霊達を通して、私は“木”のある場所ならば、何が起きても把握することが出来ます』

「え……それ、凄くないですか?」

『と……言っても、“把握するだけ”です。知ったところで何か出来るわけではありません』


 それでも十分凄いと思う。

 功はそんなことを思いつつ、その流れで再び問いかけようとした。 


『それ以上は、ひとまず待ってください』


 しかし、それは止められた。

 ずいっと光の球が功へ近づく。彼が黙ったことを確認したような動きを見せると、ゆっくりと離れながら話した。


『あなたをここへ導いたのは、私があなたのことを知りたいからです。あなたが私のことを知りたいのでしたら、あなたが答えてくれた後になんでもお話しましょう』

「……っ」


 これに対する返答に、功は困り果てた。

 タイムスリップ……もしかしたら異世界から来た。それ以前に、死んだ身から転生したなど気楽に話せることでは無い。

 

 もし転生前の自分がそんな話を聞かされれば、ジョークの類だと受け取っていただろう。


『大丈夫です。あなたがなにを話しても信じますし、誰にも言いません。さあさあ』


 好奇心剥き出しで再びずいっと寄ってくる光の球。

 ここで言わなければ、おそらく一生このことを誰にも打ち明けることなく生きていくだろう。

 であれば、謎解明のために、1人くらいには話してもいいかも知れない。


『さあ言ってしまうのです。私はものすごく興味があります! さあさあ!』


 光の球がさらに寄って来る。というか、片腕はすでにめり込んでいた。感触は無いが。


「……わ、分かりました。話します」

『ありがとうございます』

「ですから、ちょっと離れて……」

『おや、これは失礼しました』


 あからさまに嬉しそうな声でお礼を言い、離れる光の球。それに向かって、自分の身に起きたこと功は話した。


 基本的には、この世界へ来る前の話し。妹が死に、おそらく、全く同じ場所で自分も死んだこと。

 気がついた時には、森の中で1人立っていたこと。


『なるほど……そうだったのですね』

「はい……」

  

 これにより、御神木が知りたがっていた“功の正体”は、どういう理由か、突然この世界へ来た一般人であることが分かった。


 全てを打ち明けると、不思議とスカッとした気分になった。まだなにも解決していないことは分かっているが。


『……分かりました。では、今度は私の番ですね。あなたが森に来たその時のことをお教えしましょう』

「お願いします」


 御神木の木霊の話によれば、功があの森へ来た時の様子はこうだ。


 雨が降るだけの何も無い森の中。特に何も無い場所が突然光出した。

 その光の元には見たこともないような“模様”。3つの円の外内側に不思議な文字らしきものが描かれていたと言う。


 そして、いつの間にかその模様の中心には子供の姿があった。その子供は、少しの間何も無い空間を、虚な目で見つめていた。

 すると、その模様が消えたと同時に、意識を取り戻したかのように動き出した。


『……これが、あなたが森に来た時、そこにいた子達が見たことです』

「……そうですか……」


 見たこともないような模様。

 それが気になった。一体なんのことだろうか。


『すみません。あのようにあたかも真実を知っているかのような口ぶりに対し、たったこれだけの情報……どうか、許してください』

「……いえ、大丈夫です」


 その模様の正体は分からない。しかし、これはきっとかなり有益な情報だろう。

 つまり、自分は誘拐されたされたわけではなく、やはり不思議なことが起きてここにいることが証明されたのだ。


 ……分かっていたが。


『ですが、ご安心ください。もちろんこれで終わりではないですよ』

「え?」

『どうやらあなたは、別の世界? ……少なくとも、こことは別の場所から来たようです。であれば、ここについて誰かに聞くことも、ままならなかったのではないですか?』


 たしかにその通りだった。

 功はこの世界のことを誰かに尋ねようにも、当然それをすればおかしな目で見られる、と考えていた。

 

「……そうですね、その通りです」

『そうでしょう。ですから、私で良ければこの国のことをお教えしますよ。これでも、数千年生きる御神木ですから、私』

「え……い、いいんですか? あの、相当変なことを聞きますよ。多分」

『ふふっ、望むところです』


 くすりと笑ったような雰囲気を見せる光の球へ、功は尋ねた。


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