表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/286

148話 コウの過去 11


道場の表へ来ると、門下生らしき人達が大勢外へ出ていた。数列に分かれ、綺麗に並んでいる。


「それじゃあ、功君はここで見ていてくれ」


 縁側の端で功にそう言い、総一郎はその人達の前へ歩いて行った。

 向かい合うように立った彼らは、互いに頭を下げ、動き出した。総一郎と大人の門下生1人を残し、残りは功と反対側の縁側に正座で座っている。


 外に残った2人は、木刀を構えて少し離れた位置で向き合っていた。総一郎の木刀が、門下生の頭に置かれている。


「……ん!?」


 あまりに一瞬の事で、決着したのを認識するのに時間がかかった。

 門下生の木刀は地面へ落ちていて、離れていた距離はいつの間にかすぐ目の前まで近くなっている。


 今の一瞬に何があった? 


「なぁなぁ君」


 そんなことを考え、礼をする彼らを見つめていると、声をかけられた。顔を向けるとそこには、今の自分と同じくらいの男子が2人こちらを見下ろしていた。


「君、さっき先生と一緒に入って来たんだって?」

「えっと……そ、そうだよ」


 突然の質問に、若干引きつりながら答える。


「やっぱり、だから薄めで見てたって言っろ?」

「あ、だからお前、警策をいただいてたのか」

「うんそう。油断してた」


 目の前で笑い合う男子2人に、愛想笑いをする功。彼は“警策”がなんなのか、分かっていなかった。


「えっと……君達は?」

「ああ、ごめんごめん。俺は裕作ゆうさくで、こっちはたける

「……俺は功。ちょっと訳あって総一郎さんの家でお世話になってるんだ。それで、何か用かな」


 彼らの見た目から、子供に話しかけるような気分で接する。すぐに、自分も彼らと同じくらいの見た目であると思い出した。


「功君ってさ、なんでここに先生と一緒に来たの? もしかして、新しくここに入門したりする?」

「あ、いや違うよ。ちょっと見学しに来ただけなんだ」

「見学? じゃあ入門はしないのか?」

「うん……そうかな。俺には“気”とか、よく分からないし」


 そう答えた時、ふと彼らの後ろの光景が目に入った。先程と同じように、総一郎が門下生達の相手をしている。


「君達、あれはいいのかい? みんな総一郎さんと戦ってるけど」


 その方向を向きながら尋ねた。すると、2人

笑いながら答える。


「いや、俺達はまだあそこには立てないよ」

「そうだよ。だって、まだ気を掴めてないから」


 聞くと、2人は数ヶ月ほど前に入門したが、未だに気の感覚を掴めていないらしい。

 気を掴むことが出来ない門下生は、武技は持っての他。木刀すら握らせてもらえないと言う。


「だから、午前はこれで終わり。と言っても、別に俺達が気を掴むのが、遅いわけではないんだよ?」

「そうだよ。気を操れるようになる時間は、人それぞれなんだから。遅い人もいれば早い人もいるし」

「そうなんだ……」


 そこは個々の才能か、それとも感覚の差か……。

 どちらにせよ、彼らの話は仙術への功の興味を引く要因となった。


「……気を掴むには、どんなことをしているんだい?」 

「ん? ……教えてもいいのかな?」

「うーん……どうだろ……」


 功はまだ入門すらしていない。2人は子供ではあるものの、その事はしっかり理解していた。

 口を渋る2人を見て、功もなんとなくではあるものの察した。


「ごめんごめん。そうだね、門下生じゃないのに教える事は出来ないか」

「……うん、ごめんな」

「いやいや、俺が悪いから謝らないでよ」


 こちらが無理強いをしたにも関わらず謝罪を受けて、功は慌ててそれを辞めさせる。

 この国は良い人が多いな。まだ総一郎と美音以外3人としか会話していないが、功はそう思った。


 それと同時に、1つ疑問に思う。


 本当に、こんな人達が“髪が茶色”と言うだけで、人を迫害するのか。

 気になった功は、特に深くも考えずに聞いてしまった。


「ねぇ、そういえば髪が茶色の人ってどう思う?」


 そう聞いたと同時に、2人動きが止まる。

 功はいきなり話題を変えてしまったことで、困惑させてしまった。そう思ったが、どうやら違うようだ。


「……ああ、怪憑き? そんなの、決まってるじゃん」

「そうだよ。見つけたら殺せって、みんな言ってるから」

「え……」


 それを聞き、今度は功が固まる。


「い……いや……でもさ、茶髪ってだけで、普通の人と変わらないんじゃ……」

「それはないよ、功君。怪憑きは妖怪の仔なんだ」

「そうそう。その証拠に、妖術が使えるって言うしね」

「妖術……?」


 その場に、沈黙が流れた。

 それに耐えることが出来ず、功は苦し紛れに話題を出す。


「い、いや、急に変なこと言ってごめんね。そういえば、2人はなんでここに入門したの?」

「ん? えっとね……」


 黙っていた2人は、何事もなかったかのような表情で、話し出す。それに、功は胸を撫で下ろした。


「……そうだなぁ、まぁ簡単に言えば、それしか道がなかったって事かな」

「……どう言うこと?」

「俺達ってね。先生が作ってくれた孤児院に住んでるんだ」


 「と言う事は……」と、頭の中では思ったものの、口からその言葉が出る事はなかった。


「大人になったら、働かなくちゃいけないけどさ。お仕事って親から継ぐものでしょ? でも、俺達はそれが出来ないからね」

「だからここで強くなって、将来侍になれれば、とりあえず働くことは出来るから」

「ここの道場に来てる人で、そう言う人いっぱいいるよ」


 彼らの境遇を聞き、言葉を失う。


「……ごめんね。変なこと聞いて」

「ん? 大丈夫だよ」

「気にする事はないよ」


 彼らと話しているうちに、総一郎がやって来て声をかけた。なんでも、木刀を持てる門下生全員と相手をし終わったらしい。

 今日はこれで帰るそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ