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119話 再会


 そこに立っていたのは、以前闘技場で殺したはずの、“聖騎士長 ギール”だった。


「みつゲだぞぉ……マがいもノォぉ」


 聖騎士長はそう言うと、不気味な笑顔を浮かべた。


「ちょっ……なんで……!?」


 こいつはあの時殺したはずだ。確かに、この目で見た。

 しかし、聖騎士長は目の前にいる。明らかに普通では無いけど。


「まがいモのぉ……」

「……っ」


 な、なに……? 頭をかかえて……。


「ミづげだみづゲダみヅげだみづゲだぁぁぁぁぁああ!!!」

「ひぃ!?」


 頭をかかえたと思った次の瞬間、聖騎士長はそう叫び、こちらへ向かって走り出した。

 驚き、慌てて出口の方向へ走り出す。


 なになになに!? めちゃくちゃゾワってした!!


 振り返ると、気持ち悪い走り方で聖騎士長が追ってきていた。再び寒気を感じる。


 たしか、大きな扉が出口のはず……あった!


 他の扉と違い、両開きになっているドアを見つけた。体当たりで外へ飛び出す。


「あ!? な、なんだ!?」


 そこには、十数人の男達がいた。おそらく盗賊だ。とっさにその足の隙間を縫って走り抜ける。


 すると、後ろから悲鳴が聞こえた。振り返って確かめると、1人の男が聖騎士長に噛み付かれている。


「うおっ!? な、なんだこいつ!」

「おい! 殺せ!」


 他の男達は武器を手にしている。あの男達には悪いが、時間稼ぎをしてもらおう。

 ……あわよくば、倒してもらってもいいからね。



 しばらく走り続けた後、息を整えようと木陰に隠れた。


「ふぅ……はぁ……な、なんだったの……?」


 今起きた事を思い返す。

 アレは……どう見ても、前に殺した聖騎士長だった。顔だってそうだし、服だって思い返してみればあいつが着ていたものだ。


「……でも……なんで……?」


 生き返った……? いや、多分違う。生き返ったと言うよりかは……。


「“ゾンビ”……」


 肌が腐っていた事も、人に噛み付いた事も、ラノベで見た事のある“ゾンビ”そのものだった。

  

 この世界って……ゾンビがいるの? ファンタジー作品には『アンデット』って言うモンスターがいたけど……。


 俺はこの世界のモンスターについて、まだよく分かっていない。もしかすると、あの聖騎士長は『アンデット』になったのかも知れない。


「……本当に面倒くさいやつだね」


 あいつには色々と苦労させられたけど、まさか生き返ってまで俺に迷惑をかけてくるとは思わなかった。


「……」


 正直、あの盗賊達が勝てるかどうかは分からないけど、今はあの聖騎士長を気にしている暇はない。


 リティアさんを助け出さないと。


 確か……あのアジトの入り口には、馬車の跡があった。その跡は今走ってきた道にもある。

 途切れ途切れではあるものの、これを辿ればリティアさんを乗せた馬車に行き着くはずだ。


「すぅー……ふぅー……」


 呼吸を整え、立ち上がる。


 武器は小さなナイフと身体強化だけ。探すのは、どこにいるかも分からない少女1人。


「でも……絶対に助ける」


 馬車が通った、途切れ途切れの跡が向かう先を見つめながら決心する。

 ナイフを服の中へ隠し、身体強化をかけて全力で走り出した。




 どれくらい時間が経った……。


 暗く、なにも見えない揺れる空間の中で、そう思った。

 外からは数人の男性の声が聞こえてくる。まだ上手く聞き取れない“人間の言葉”で。


「おい。道……合っ……のか?」

「は……っています」

「そう……くれぐ……北西には向か……なよ。あの黒髪の子供……家がある……いからな」

 

 黒髪の子供……? カイト君かな……?


「にし……も、この馬……積めて……のは……」

「……エルフだ……今後……ルフ国と……やり取りに使う……」


 エルフ国……私の国……。


 母国の名前を聞いて、過去の記憶が脳裏によぎった。


 あの頃も……よくこんな部屋の中にいたなぁ。カイも一緒に……。


 ふと、弟の顔が浮かぶ。すると、自然と涙が溢れ出してきた。

 いつも一緒にいた弟。辛い時も、痛い時も、苦しい時も。


 そして……捨てられた時も。



『またお姉ちゃんの弟にしてね!』



「う……うぅ……ごめんね……カイ……私、守れなかった……」


 足首を縛られた足の間へ顔をうずめる。そのまま声を抑えて泣いた。


 私……このまま、カイとの約束を守れずに……死んじゃうのかなぁ……?


「……それは……やだよぉ……」


 約束を守れないかも知れない。このまま死んでしまうかも知れない。

 そんな恐怖に襲われる。


「ぐすっ……うえぇ……」


 その時だった。

 

 突然、馬車が大きく揺れて止まったのを感じた。

 何かと思い、顔をあげる。すると、外から男性達の叫び声が聞こえてきた。


「おい……! な……だ!?」

「分かりま……ん! 何か速いのが……ぎゃあ!」

「おっ応戦!! 応…!!」


 なに……!? なにが起きたの……!?


 馬車はグラグラと揺れ、外からは男性の声が聞こえてくる。

 なにが起きたのか分からず、ただ縮こまることしかできない。


 ついに男性達の声が聞こえなくなった。しかし、足音は1人分聞こえる。

 その足音は馬車の荷台の後方へ移動した。


 

 そして、荷台の後方を覆う布が勢いよく開かれた。満月の光を背にして、1人の人影が乗り込んでくる。



「リティアさん!」


 その人影とその声には覚えがあった。

 生活を共にし、言葉を教わり、自分が必死に守ろうとした少年。


「カイト君!!」


 その少年はカイトだった。

 手には刃こぼれした小さなナイフを持ち、あちこちから出血しているカイト。


「リティアさん! 無事だった……」


 体が勝手に動いた。駆け寄ってきたカイトへ抱きつく。

 そのまま倒れ込んでしまったが、彼の体を抱きしめる手が離れなかった。


「カイト君……うああぁぁぁん……」

「リ……リティアさん……」

「良かったぁ……良かったよおぉぉ……」


 カイトもリティアの背へ腕を回した。


「リティアさん……聞きました。僕の事を守ろうとしてくれたって……」

「……! で、でも……私……気絶して……」


 すると、カイトが微笑みを見せた。


「そんな事ありません。……リティアさんが守ってくれたから、今ここに来れたんです」

「……!」

「守ってくれて……ありがとうございました」

 

 必死に守ろうとした存在が、今目の前にいる。全身に傷を負ってはいるが、無事だった。

 

 そして……約束を守れた。


 そう思うと、胸が熱くなった。涙がさらに溢れてくる。


「ありがとう……ありがとう……」


 しばらくの間、彼を抱きしめる腕から力が抜けることはなかった。

 

 無事に再会できました。

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