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102話 召喚 1


 ワイバーン討伐作戦が無事終わった現在、ラカラムス王国ではとある噂が広まっていた。


 それは、ワイバーン討伐部隊の前に現れた“2人の子供”だ。


 

 ワイバーン山岳が存在する国、ラカラムス王国。そこでは、日々ワイバーンへの対策が議論されていた。

 どのようにして、ワイバーンを間引くか……しかしそれは、困難を極める。

 ワイバーンと渡り合える人間は極端に少ない。軍をぶつけなければならぬ程、ワイバーンは強力なのだ。

 そんな存在に議論は絶えなかった。


 その矢先に起こった凄惨な事件。


 ラカラムス王国国王、ライナ・ラカラムスは、“ワイバーン討伐作戦”を表明。決行した。


 しかし、討伐部隊がワイバーン山岳へ向かった後、さらなる事件が起き、国全体に避難勧告が出された。

 なんでも、“国滅ぼしの魔物”。ブラック・ワイバーンが、この国にいる事が判明したとの事だった。


 だが、この避難勧告はすぐに解除された。討伐作戦によるワイバーンの間引きも、予定通りとは行かぬものの成功したと言う。


 そして、避難勧告が解除される理由はただ1つ。ブラック・ワイバーンが討伐された事を意味する。

 その後、国王から正式に“ブラック・ワイバーンは討伐された”との発表があった。



『誰が倒した?』



 当然、国内ではその話題でもちきりになった。

 そこに、名が挙がったのが『黒髪黒目の少年』だ。


 熱が下がり始めていた“最悪の聖騎士長ギールを一方的に屠った”という噂。それにより、救世主と呼ばれていた人物も、“黒髪黒目の少年”だった。

 そして、討伐部隊の者に聞かされた“救世主が協力を持ちかけた”という、王の発言。


 これらが合わさり、ブラック・ワイバーンを討伐したのは『黒髪黒目の少年』であると、広まっていった。



 そしてもう1人。

 討伐作戦が無事終わったと発表されたが、重症を負い、もう助からないと悟っていた者達が大勢いる。

 そんな者達の前に突如として現れた“白髪の少女”。


 その少女は、不思議な力でその場に居た者達の傷を癒し、森の中に姿を消したのだと言う。

 それにより、重症だった者達は奇跡的に生還した。



 危機的状況だった討伐部隊の前に現れた、2人の子供。


『ブラック・ワイバーンを単独で討伐した黒髪黒目の少年』

『瀕死の傷を癒し、部隊員の命を救った白髪の少女』


 2人はそれぞれ“英雄”、“聖女”と呼ばれ、圧倒的な人気を集めていた。



 どうも、その“英雄”兼“聖女”のカイトです。


 俺はそのブラック・ワイバーンを倒した報酬として、騎士団長のミフネさんに魔術の家庭教師をしてもらう事になりました。

 彼女の指導のおかげで、魔術の連射速度はみるみる早くなっています。

 そんな中、彼女から“召喚魔法”を教えてもらいました。


しかし、なぜか20万の魔力が魔法陣へ吸い込まれました!


 急いで召喚を止めようとしたけど、間に合わなかったようです。そして、なんかやばそうな演出で”それ”は召喚されました。


 大きな体躯、背に生えた翼、ずらりと並んだ牙、そして真っ黒な体。


 ブラック・ワイバーンを倒して英雄と呼ばれている俺は、ブラック・ワイバーンを我が家の裏庭で召喚してしまいました。




「ミフネさん! 僕から離れないで!」

 

 とっさに俺達と、こちらを見下ろすブラック・ワイバーンの間に“結界魔法”で結界の壁を張った。

 目の前に5メートル四方程の、ガラスのような板が出現する。



 “結界魔法“と聞くと、街全体を覆ったりする大規模なものを考えるが、現実はそこまで大層なものではなかった。

 張ることのできる結界の体積は決められており、イメージ的には“形、大小を自由に操れる鉄の塊を持っている”と言う感じだ。


 分厚くすれば、その分強固になるが面積が狭くなる。

 面積を広げれば、その分広範囲をカバーできるが強度が落ちる。

 俺が習得した“結界魔法”はそんな感じだった。


 このように、この世界の魔術や魔法、スキルは俺の想像と違うところがいくつもある。

 それは、今回習得した“召喚魔法”も例外では無い。


 俺はラノベからの知識で、てっきり召喚体は言う事を聞くものだと思い込んでいた。

 その思い込みがこんな事態を引き起こしたのだ。



『今のこの国では、君ともう1人の少女の噂が広まってしまっているんだ。だから、しばらくの間は家の中で身を隠しておいてくれ。そうすればトラブルは起きないはず』



 王様に言われた事が頭の中に流れた。


 ダメでした。家にいてもとんでもないトラブルが起きました。



 ルルルル……。



 って、そんな事考えてる暇じゃない! こいつをどうにかしないと!


 ブラック・ワイバーンは未だにこちらを見下ろしている。

 それを見ていると、山岳で出会ったブラック・ワイバーンを思い出した。


 確か……あいつも最初はずっと見下ろしてきたよな……。

 その後、救出部隊のみんなを逃しても、追ったりはしなかった。


 自分の後ろにいるミフネさんに視線を移す。


 今なら……彼女を逃がす事が出来るんじゃないか……?

 今回も俺が狙いとは限らないけど……やるしかない。


 そう考え、すぐに行動に移した。


「ミフネさん……僕が引きつけますから、逃げてください。……あと、家にいるみんなへ避難指示をお願いします」


 それに対し、当然彼女は驚いた。


「は、はぁ!? あんた1人残して逃げろって言うの!?」

「こいつに対抗できるのは僕だけです。それに、全力で逃げれば捕まりはしません」

「……っ」


 彼女は納得のいかないような表情を見せたが、大きな舌打ちと同時に指示を出した。


「ここで戦うと住民が巻き込まれるわ。北の森にまっすぐ逃げなさい。そっちには古い街道があったはずよ、住宅街よりかは被害を抑えられるはずだわ」


 いつの間に、この領地にあるものを把握していたのか。


「良い? 避難指示を出したらあたしも行くからね。あたしが行くまでに死んでいたら許さないからね!」

「……はい!」


 互いにうなずき合い、彼女が動き出した時だった。


 ブラック・ワイバーンが突然動き出した。頭を下げ、こちらに近づけてくる。


「っ!?」


 一瞬目を離した隙に動き出した故に、反応が遅れてしまう。


 まさか、狙いは彼女だった!? だとしたら、今離れさせるのはまずい!


「ミフネさん! 待って!」

「えっ!?」


 とっさに彼女の腕を掴み、引き止める。

 その時には既に、ブラック・ワイバーンの頭が目の前まで来ていた。


 まずい……。


 噛み付いてくる? それともブレス?


 結界を張る事へ全神経を集中させる。


 ……しかし、ブラック・ワイバーンが攻撃してくることはなかった。

 頭を下げ続け、そのまま地面に伏せるような姿勢をとった。



 コルルル……。



 その鳴き声は今までの唸るようなものと違い、まるで喉を鳴らしているような音だった。


「……?」

「……ちょっと、どうなってるのよ」


 俺も分からない。


 地面に伏せてる? なんで……? ……ん?


 ここで、このブラック・ワイバーンは右目に一本の傷跡が付いている事に気がついた。


 この傷……どこかで……あ!


 以前戦ったブラック・ワイバーンに、このような傷をつけた事を思い出す。

 岩山から飛び降り、刀でつけた傷だ。


 まさかとは思うけど……。


「もしかして……前に戦ったブラック・ワイバーン?」



 ゴァッ



 え? 今、返事した?


 ブラック・ワイバーンは返事をするように短く鳴いた。


 なんだ……あのブラック・ワイバーンか…良かった……。

 いや、良くないよ!


 あのブラック・ワイバーンだとしても、なんの解決にもなってない! むしろ、恨みとか持ってるかもしれないじゃん!


 頭の中で自分にツッコミをいれる。

 だが、その間もブラック・ワイバーンは、伏せたまま微動だにしなかった。


「様子がおかしいわね……」


 ミフネさんも何かに気がついたようで、そう呟いている。


「カイト、さっき言った事を説明しなさい。こいつがなんだって言うの?」

「あ……はい。えっとですね……」


 ブラック・ワイバーンに傷がある事をもう一度確認し、答えた。


「このブラック・ワイバーン……もしかしたら、僕が殴り倒した奴かもしれないんです。……右目に僕が刀でつけた傷跡があるから……」


 傷跡へ指をさしながら、説明する。


「……こいつ相手に接近戦を挑んだ上に、殴り倒したってのは一旦置いとくわ」


 置いとくのか……。


「……で、何? あんたは自分が倒したブラック・ワイバーンを、自分で召喚したわけ?」

「そ、そうみたいですね……」


 そんな事あるの? でも、実際に目の前で起きたしな……。


「だとしても、なんでこいつはへりくだってるわけ?」

「わ、分かりません……」

 


 コルルルル……。



 答えるように、ブラック・ワイバーンが再び喉を鳴らす。

 ミフネさんはブラック・ワイバーンを見上げた。

 それに応じるように、ブラック・ワイバーンも彼女へ視線を向ける。


「……」


 彼女とブラック・ワイバーンが互いに見つめ合う時間が流れる。


「……とりあえず、突然襲ってくる事は無さそうね」


 そう言い、構えていた杖を下ろした。


 一体どういうことでしょうか……。

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