四ノ柱 血統
そもそも『血統』とは、魔力適正のある人間が持つ血のことを差す。
血統の歴史は、旧時代と呼ばれる一つの国に統一されていた時代まで遡る。
かつて最も栄え、世界のすべてを統一した帝国。
その初代大王が月の女神ルギラネティルシアと太陽の男神ホロウォティウの御子と結ばれ、後の『初祖』と呼ばれる二代目大王とされた御方が持っていた摩訶不思議な力。
それが『魔法』
火を宿し、水を操り、風を制し、土を司る。
神の血を巡らせ大自然の力を我が物として、その血統は産まれた。
しかし繁栄も束の間、帝国は緩やかに弱体化し崩壊。
魔法を持つ血統の者達は散り散りになり、世界各地に自身を王と立て国を興した。
血統の者達が国を興して暫くのこと、魔法を使える者は増え、戦いの形は変わり、魔法を主力とした戦争の時代が幕を開けた。
初祖の血統が濃淡関係なく広がった現在では、庶民でも魔法を使える者が多く存在している。
経緯となった過去はまたいずれ語られるが、その『血統』に目覚めたのがソルフテラである。
互いに対する両者の気持ちは産まれた時から変わっていない。変わってしまったのは周囲で、環境で、立場で、居場所だ。
それを分かっているから、ルナリオンも目の前に居る少年の心を否定しない。
「分かってるよ、ソル」
ルナリオンは目の前にある新月の夜空色の髪をなで回した。
突然の行動に驚きつつもソルフテラは抵抗しない。それどころか、満更でもない様子でさらにすり寄った。それは互いに満足するまで続き、数分の後にどちらかともなく笑いあった。
「私はちょっとギルドの方を血祭りにあげてくるけど、ソルはどうする?」
「暴れるの?楽しそうだから行こうかな」
唐突にサラリと物騒な事に誘われたが、ソルフテラにそれを断る理由はない。二人で行動するのは幼少期の頃では当たり前のことだった。例えそれが他者に迷惑が被るようなことでも。
そんな二人に頭を抱えて、空気に徹していたグラディウスは口を挟んだ。
「散歩に行くみたいなノリで殴り込みにいくな」
「グレイは?行く?」
「行くわけないだろ。おやつでも用意しとくから手早く済ませてこい」
「おっけー」
「オレ、グレイもだいぶおかしいと思うんだよなぁ」
ソルフテラはそう言うが、これはグラディウスがおかしいのではなく単なる諦めだ。止めようとすれば巻き込まれるだけである。放っておくのが吉、とグラディウスは心得ていた。
巻き込む本人達は分かってはないらしいが。
「まずは侯爵の方だね。依頼主の方を押さえておけばギルドの方は逃がしても問題ない。
今回重要なのはエクテレスィー侯爵が裏ギルドと繋がりを持っていることだから。行方不明の孤児の件は見付かれば僥倖ってことで」
「そう…だな、心苦しいけど侯爵を逃がさないことが前提だ」
ルナリオンは納得できていないようだが、今から動いたとしてもギルド幹部は大半は逃げ仰せるだろう。
裏ギルドは問題がおこった時や、摘発されたときに備えて常に逃亡出来るように準備をしてある。裏ギルドを潰すにはそれに連なる末端の末端まで押さえて一掃しなければ意味はない。
それにこれだけ派手に動いた裏ギルドはいずれは重大粛正対象となる。となれば最優先は貴族の方だ。
「今から行けばギリギリ面会時間に間に合う。侯爵邸に乗り込むぞ」
「おう。…殴り込みにかけるのに面会時間とか気にする必要あんのか?」
「いやだって、夜中に行くのは無礼だろう?」
殴り込みに行くのに無礼も夜中もないと思う、とルナリオンは思ったがそれは口には出さなかった。
ソルフテラは変なところで真面目だ。
「じゃあ行ってくる」
「とっとと行け」
しっしっ、と手を振って二人を見送ったグラディウス。
ふと、目の前に一枚の紙があるのに気が付く。それを手に取り軽く目を通す。
「あ?ルナリオンが持ってきた資料か…」
二人が帰ってくるまでの間の暇潰しとして、グラディウスはその書類を読み始める。
日が沈む直前のこと、貴族街に建てられているとある貴族邸にけたたましい轟音と共に二人の侵入者が降り立った。
その屋敷の主、エクテレスィー現当主は目を見張った。
「はーい臨時調査官のリオンハートでーす。
上官命令に従い、使用人含めて捕縛させていただきますっ」
白と黒が混ざりあった髪、白銀の瞳、小さな体躯。その身を包むのはフェアリー・ローズと呼ばれる王女殿下の禁色に準じた近衛騎士のマント。
何より『獅子の魂』を意味するリオンハートの名を冠する者は、貴族の令嬢ではこの少女において他には存在しない。
「お前はっエルリークス家の!!」
「おっ、知ってんのか。私ってば有名人じゃーん。じゃあ私が何しに来たのかも想像つくよなぁ」
ニタァと歪な笑顔でルナリオンは侯爵を見据える。あまりの凶悪な笑顔に周りにいた執事や侍女、護衛すらも侯爵共々恐怖に染まっている。
これではどちらが悪人かわからない。
侯爵は慌てて護衛に助けを求めた。
「おい!こいつを早く追い出せ!!」
「それは出来ません」
「デュトラバドール家のガキまで…!!」
新月の夜空色に染まる髪に黄金を秘めた瞳、ルナリオンと同じく禁色に準じたマントを羽織ったソルフテラが、魔法でぶち壊した屋敷の壁だった瓦礫の隙間から顔を出した。
ルナリオンはキョロキョロと辺りを見渡し、目的の人物がいないことに気がついた。
「あれ?ボースハイトがいないや」
「遅かったか。ルナ、奴を追ってくれ。こっちはオレ一人で片付ける」
「どれだけやっていい?」
「口が利ければいい」
「了解」
それだけ確認するとルナリオンは飛び去っていった。
幾人かはそれを追いかけたが、二十人以上をソルフテラが相手取ることとなった。だがそんなことは気にも止めず、ソルフテラは懐から出した一枚の紙を突き付ける。
「エクテレスィー家当主、ブライアン・エクテレスィー。
お前を裏ギルドとの接触の容疑、幼児誘拐計画犯として拘束させてもらう。悪いがこれは王女殿下の決定だ、意義は認められない」
その言葉を聞いた途端、侯爵は憤怒の表情に変え腕を振り上げ、魔法を発動する。
「ふっ、ふっ、ふざけるなぁああああああああ!!薄汚れた血の下民ごときが思い上がるな!!」
貴族には血統を持つ者が多く存在する。女性は特に魔力が高ければ高いほど家格の高い家に嫁ぐことが求められる。子の血統の濃さは、母親の魔力に比例するからだ。
腐っていても侯爵家。エクテレスィー家も何代もの濃い血統を迎え入れ、地位相応の魔力の高さを持っている。
周囲に散らばる壁の破片が浮かび、ソルフテラめがけて突っ込む。それと同時に護衛たちも襲いかかる。
冷めた目で向かってくるそれらを見つめ、ソルフテラは剣の柄を握り締める。。
「どっちがだよ、過去の栄光にすがり付く濁り腐った古家が」
地面に突き立てた愛用の剣が蒼く染まる。辺りの空気が凍りだし、護衛の足は止まり、襲いかかった瓦礫すらも見えない氷に阻まれその場に崩れ落ちる。
「凍獄魔法《氷の妖刀》」
ほんの一太刀、それを振るえば全てが氷の中に閉じ込められる。
瓦礫も、家具も、火も、魔法も、人でさえ。
ソルフテラはある事情で後天的に『血統』に目覚めた。
それは始まりの血統を意味する『始祖』と呼ばれ、神の血を直接継ぐ『初祖』よりも強い力を持つ。特に一世代の力は強力で彼らは初祖の血統よりも遥かに強力な魔法を持つとされた。
始祖の第一世代は『レイ』の名を賜り王族に召し上がられ、その価値は一国の軍にも相当するとされる。
これはソルフテラも例外ではない。
事実、並の魔法使いや兵士では束になっても敵わず、魔法だけなら本人が所属する近衛騎士団の中でも一、二を争うほどの強さを誇る。貴族の護衛程度では手も足も出ない、人数の差など始祖の血統の前では無に等しい。
始祖の持つ魔法は人の扱える物ではない、天災に匹敵するほどの危険性を秘めたものだった。
キィン、と剣を鞘に納めれば冷気は徐々に消え失せ、視界がハッキリとする。
「己の行いの罪深さ、しかと牢獄で噛み締めろ」
それを聞く者は居ない。魔法を使った張本人を除いて、その場に居た全員は氷の棺で眠ることとなっていた。
決まった、とソルフテラは小さく拳を握った。
ソルフテラ、16歳。カッコつけたいお年頃。
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【人物紹介】
ソル=フテラウィル=ヴァランサー・ディア・レイ=リング・ナイト・リ・デュトラバドール
年齢:16歳
性別:男
誕生日:冬の終わり
俗称:フテラウィル・レイ・デュトラバドール
通称:ソルフテラ(グラディウス他下町の人間のみ)、フテラウィル
容姿
身長:170㎝
体重:64㎏
髪:紺色のショートカット
目:黄金色
その他:右手首に傷痕
一人称:オレ
二人称:君、アンタ
呼び方
ルナリオン→ルナ
グラディウス→グレイ、父さん
呼ばれ方
ルナリオン→ソル
グラディウス→ソルフテラ
詳細
本作の主人公でルナリオンの親友
始祖の血統を持つ下町出身の少年
身分は王国の貴族の養子、また王位継承第一位であり現国王の唯一の嫡子である王女の護衛騎士見習い、それと同時に王女の王配の最大有力候補
ちなみにルナリオンとグラディウス以外に興味は無い