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第一章 第三夜 アヤハ

 少し古びたネットカフェに連れてこられて怪しげな通路を歩いて辿り着いた部屋、厳重な警備の奥に待ち構えていたのは見た目はまるで中学生のような少女だった。

 黒く澄んだ瞳に可愛らしい鼻と口が寄り添い、髪はさらさらな栗色で無造作に腰まで下ろしかわいい顔の輪郭を優しく包んでいる。もう寝るつもりでいたのかあまり飾り気のない薄いピンクのネグリジェを身にまとい、座っていたであろう椅子の上には抱くのにちょうど良さそうなクマのぬいぐるみが置いてある。

 この子を一言で表すなら十人のうち三人は『一生愛でていたいかわいさ』と言うだろう女の子が、あまり無い胸を自信満々に張って仁王立ちで威厳ありげにこちらを見ている。かわいくないわけがない。


「わたしがここの支部のリーダーをしている、笛吹(ふえふき) 綾羽(あやは)ですっ! よろしくね、新人くん!」


「……え………あ、とっ………(錬鎡(れんじ))」


「………………?(綾羽)」


 突然の少女の出現と少女が驚くべきかわいさであるという二重の予想外に襲われ言葉に詰まる錬鎡と、そんな新人くんを不思議そうに見つめる綾羽 (かわいい)。

 そして二人を尻目に入り口横の休憩用ソファにドスッと腰を下ろす凌駕。


「さっさと話進めろよ」


「そーだねっ、新人くんもこっちおいで!」


 そういうと綾羽は凌駕の隣にちょこんと座った。

 錬鎡は少し場所を探して二人に向かい合うソファにローテーブルをはさんで座る。


「えと、煌巻(こうまき)……錬鎡、です」


「よろしく! 錬鎡くんっ! これから大変かもだけど、頑張ってね!」


「う、うん……何を?」


 どうしても歯切れが悪くなる。また錬鎡の理解が追いつかない現象来ました。略して「またがない現象」。


「悪い、綾羽。コイツに説明したはずだがたぶん理解してねぇ」


「えぇ〜〜! もぅ、凌駕くんの役立たずぅ〜」


 ()()()という擬音が錬鎡の耳には届いたが、気づかなかったことにした。てかチャンスだった。


「ごめんねぇ、綾羽ちゃん。凌駕の説明だとわかりにくいこと多くて」


「あ゛?」


「ごめんなさい、僕の頭が悪かったですすみません殺さないでください」


 錬鎡の急な拉致に対するささやかな復讐は失敗に終わった。チャンス? そんなの初めからなかった。


「じゃー、しょーがないからメンドクサイことは省きながら状況と私たちについて教えるよ」


 少しだけ空気が変わったような気がした。


「錬鎡くんは『Suicider』って聞いたことある?」


「スー、サイダー?」


「うん。英語で「自殺する人」みたいな意味なんだけど、その『Suicider』っていう掲示板サイトがあるって聞いたことない?」


「そういえば、針崎がそんなサイトがあるとかないとか言ってた気が。よく覚えてないけど誰も見つけられないサイトだっけ」


 針崎は錬鎡の高校の友人で都市伝説やオカルト好きなので、錬鎡もよく話を聞いている。病院に寝泊まりすると言うと嬉々としてあることないこと吹き込んでくれた。


「そのサイト、正確には「誰も」じゃなくて「()()()()()()」しか見つけられない。つまり自殺志願者だけが行き着くサイト」


「自殺したい人……」


「そーいう人が集まる所って他にもあるらしいんだけどね、みんなそんな掲示板に書き込むんだ。『もう人生嫌だ。死にたい』って」


 錬鎡に言葉はない。

 凌駕もただ静かに目を閉じている。


「それが普通の掲示板なら何もないんだけど、『Suicider』は違う。くわしくはわからないんだけど、書き込みがある種の『契約』になって『宣告者(バナオル)』が生まれる。生まれた『宣告者(バナオル)』は現実に実体を持って現れて、そして『契約』した人の命を、魂を奪って消える」


「「…………………………」」


 飛行中に凌駕の声が聞こえていなかったのは錬鎡にとっては幸運だったのかもしれない。

 間違いなく今、綾羽はこう口にした。「命を奪う」と。現実味のない話だが、病院で証拠を目撃してしまった。


『あの鬼武者が本当に人を殺す』


 脳裏に浮かんだイメージは事件の直後であればより鮮明に錬鎡を襲っただろう。


「奪われた魂がどーなるかもわかってない。また時々いる私たちみたいに『宣告者(バナオル)』が見える人も彼らの的らしいの。『契約者』以外は物理的に殺しにくる」


「! じゃあ僕もあの時狙われてたってこと⁉︎」


「私も監視カメラで覗いてたけど、あれじゃー完全にバレちゃったよねー見えるの。おそらく今後、彼らの任務遂行時にサクッと一緒にヤリにきたり?」


 綾羽がかわいくウィンクを飛ばしてくれたが錬鎡はそれどころじゃない。マジで。


「本っ気でヤバいよねそれ」


 錬鎡の持ち前の軽さでさえ、どうしようも無い重い事態になってしまっていた。今後一生、錬鎡はアレに襲われる可能性がある。そういう話だ。


「しかし! 安心したまえ、錬鎡くん。そのために新人くんになってもらったんだから!」


 綾羽は立ち上がり、先ほど同様無い胸を主張してくれた。


「私たちは、『宣告者(バナオル)』を視認できる『能力者』を保護し、みんなで助け合おうという組織である!」


「……つまり?」


「錬鎡くんも守ってあげるからみんなのために戦ってね! ってことです」


「………………。」


「戦ってね!」


 かわいい。すごくかわいい。この流れで申し訳ないんだけど、たださえ天使の綾羽ちゃんが満面の笑みでサムズアップしてるとか。もうかわいい‼︎ by 天の声


「いやいやいやいやいや! 無理でしょ! 僕今回飴玉投げただけだよ⁉︎ あんなの一生かかっても戦えないって!」


「大丈夫です! 見えたってことは何か能力は持ってるはずだし、訓練すれば!」


「能力?」


「そうパワー!」


「訓練すれば?」


「れっつトックン!」


「僕も凌駕みたいな魔法が使えるってこと?」


「いえすマジック!」


「マジで⁉︎」


「たぶん‼︎」


「たぶん⁉︎」


 盛り上がったテンションを返してほしい。重たくなった心も体ごと飛んでいくかのように軽くなったかと思ったら、すごい勢いで落とされました。


「いや〜、能力って個人差があって。人によって使える力も違うし」


 言い訳をするときの、だってしかたないよね〜感を醸し出し綾羽は錬鎡に言う。


「えぇ〜。それ本当に大丈夫?」


「うん! きっと! おそらく! と・に・か・くっ!」


 信憑性にかける前置きのあと、綾羽は元気に手を差し出した。


「これからよろしくね!」


 そんなこんなで、錬鎡が組織に加入した!








「ところで、凌駕くん寝ちゃったね」


「静かだと思ったら寝てたのこの人?」


「………………………sss」


「遅くなったけどお茶飲む〜?」


「あ、ありがと」

『放置なんだ……』

やっと第三夜投稿です。

筆が進む時は早いんですが……うーむ。


ところで疑問なんですが、地の文が三人称(天の声)の場合の人物の心の声の表記はどうするのが正しい、読みやすいのでしょう? (今は『』に入れてます)

もしこれを見ていただいたお優しい方がいらっしゃいましたら勉強させていただきたいです。

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