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ブリキの心臓  作者: 着津
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(4)

木漏れ日と美しい海、その合間の白く輝く砂浜。それらに目を奪われて歓声を上げようとした瞬間、ぎりぎりと胸が悲鳴を上げた。息を詰まらせて身を縮こまらせると、優しい掌が慌てたように背中を撫でるのを感じた。


「――ティ!どうしたのだ!?」


心配そうな声にすら返事ができない。ひたすらに胸が痛むこの現象に、耐えることしかできなかった。


視界が暗転していくことが、これは遠い記憶の夢なのだと教えてくれた。


はっ、と目を開ける。いつの間にか胸の痛みは余韻も残さず消え去っていた。ぼんやりとあたりを見回す。


明るい白地の壁に三方囲まれているが、一方は薄い布地でふさがれていて時折吹く風が入り込んで来ている。さわやかなそれは、遠い昔に一度感じたものとよく似ていた。あの夢の中で感じたような風だった。


身を起してみたが特にすることもできることもなく、ぼんやりとしているしかなかった。あの部屋とは違う、にぎやかで馴染みのない様々な音に気を取られていた。


どれくらいほうけていたのか、遠くから何かの足音とおそらくは話し声が響いてきて、私は夢から覚めた時のようにはっとした。とは言え、したいこともするべきこともないのでだんだんと近づいてくる音に聞き入った。


近づいてきた足音は、どうやらこの部屋の前で止まった。足踏みの音が響き、落ち着いた声がかかった。


「失礼します、お嬢様。……、返事がないということはまだ目が覚めないようですね」

「……起きています」


後半のつぶやきに慌てて声をあげるが、それは小柄な男性が布をかき分けて部屋に入ってくるのとほとんど同時だった。会話になれていないとはいえ、おそらく不適切な言葉だったのだと私でもわかったが、その男性は不機嫌になるでもなく、むしろうれしそうに微笑んだ。


「おや、お目ざめでしたか。良かった良かった」

「……」


陽気な言葉に、返事をするべきなのかすらわからずにいると、男性は眉をあげて小首をかしげた。いで、眉が真ん中による。顔の動きの意味がつかめずにいると、男性は先ほどよりも固い口調で質問を始めた。



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