(3)
急な光に目が痛む。耐え切れずに目をぎゅっと瞑った。だから、わからなかった。部屋の扉を開けさせた青年が私を見て、嫌悪を露わにする表情を浮かべたことを。扉を開けさせられた女性がその隙に駆け去っていったことを。
光に目が慣れて目を開く。
「お前がフロレンティ王女か……。貴重な機械類に囲まれてさぞご満悦だったのだろうが、今日でそれも終りだ」
「……」
何を言われているのかさっぱりわからないし、そもそもフロレンティと言う名も初めて聞くものだ。硬い金属で体の一部を覆っているこの目の前の人は、髪も短いし何より壁のように大きい。たぶん男性なのだろう。
彼の迫力と理解が追い付かないせいで返事をせずにいると、彼は厳しい表情に鋭い眼光をくわえてさらに言葉をつづけた。
「何か言ったらどうなんだ」
「私は……、フロレンティと言う名ではありません」
本当のことを言っただけなのに、彼の迫力が三割増しになり、鋭い眼光がさらに強いものになった。どうしようもなく体が震える。
「ふざけたことを……っ!小さな島国でろくに資源もなく苦しむ民から税を巻き上げ、贅をつくしているではないか!」
「……」
彼は聞く耳などないとばかりに怒鳴りつける。私は喋りなれていないことと、彼に反論する意味もないので結果的にまた黙ることになった。
「お前には、人の心がないのか……っ」
続けられたふり絞るような言葉に、そもそも人とのかかわりがなかった私は、なぜ胸が痛むのかもわからなかった。そもそも、なぜ私は王女などと言われているのか。彼は何者なのか。分からないことばかりで元から人と喋る事を知らない口が動くはずもない。
ただ、わかることは一つだけ。ぎりぎりと胸が痛むということ。それは彼が扉を開いた時から痛み出していたが、ついに耐え難いものとなった。
「私は……」
何を期待していたわけでもないのに、紗が掛かった向こう側の出来事のように、自分が絶望していくのを感じた。
「言い訳か!?……、おい?」
ゆっくりと視界が狭まっていくのと、威勢の良かった彼の声が戸惑いに揺れるのを感じながら、私は意識を手放した。最後に感じたのは、締め付けられるような胸の痛みだった。