(2)
大陸に囲まれた、巨大な礁湖の中にぽつりと浮かぶ小さな島国。それが、私の暮らす部屋のある家のある国。そのことを知識として知っていても、実感したことはない。気が付けばブリキのおもちゃに囲まれ、人間の気配を感じながらも、実際に会ったことすらないのだから当然と言えば当然なのかもしれない。
まるでそれを贖罪するかのように、国についてや外の人々について、はたまた想像豊かな物語など、様々な本が毎月届けられる。年月日のことを知ったのも本から。はるか遠い記憶の隅で、文字や言葉を学んだ情景も浮かぶが、やはりそれはかすんでよく思い出せない。
「この部屋の外のことも、空想物語も、私にとってはすべて非現実的なことだわ」
ぽつりとこぼした言葉に相槌も、ましてや返事もない。そのことに微かな感情が浮かぶが、それが何かを認識する前に消えてしまった。
日に三度の食事を食べ、暇な時間がないように読書や手芸等をしながら、部屋から出ずに暮らす。こんな毎日が死ぬまで続くのだと思っていた。
それは何の変哲もない一日に終わりを告げた。部屋に満ちる金属の奏でる音をかき消すような焦燥の声、慌ただしい足音。
異変を感じて読書をやめ、唯一外とつながる扉に近づく。
「やめて!私は何も知らないったら!」
「うるさい、この部屋に出入りしているのはお前だと情報があるんだ!」
扉越しにくぐもった激しいやり取りを聞きとる。この部屋……、もしかして私のいる部屋の事だろうか。
「さあ、開けろ!」
「……っ!!」
一方の厳しい男性の声に気おされたのか、もう一方の女性の声が詰まる音が聞こえた。私は内開きの扉から慌てて離れた。その際に足が絡み合って倒れこんでしまう。運がいいのか、部屋が狭いせいか、上半身を寄りかからせる形でベッドに受け止められた。
かちり、かちり、と焦ったようにがたついた音が響き、焦れるような足踏みの音が不協和音を奏でる。私はただ、何もできずにそれを聞いていた。
「開いた!」
勢いよく扉が開く。私は急に差し込んだ光に目を細めた。