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「さて、重要なのはあなたがこれまでの経緯を知ることと、私からの提案を飲むことが前提であるということだ」
「……、つまり、ラディ殿下の提案を飲まない限り、私は知りたいことを知れないということ、ですか?」
私が眉をひそめて問えば、ラディ殿下は満足そうにうなずく。
「ああ。私からすれば、私の提案を飲まなければそのことをあなたが知ることに意味がないからな」
どうあがいても、ラディ殿下は私をいいようにできるが私はそれにまともに抵抗することはできないらしい。そのことにはため息をついてあきらめをつける。
「分かりました……。あなたの提案を飲みます」
ラディ殿下はよく言った、と満足そうに笑うとつづけた。
「あなたには私の妻になってもらう。一先ずは愛妾、と言うものだな」
その言葉に驚きをあらわにし、厳しい視線を向けたのは私ではなかった。
「殿下!何をおっしゃるのです。あまりにも理不尽ではありませんか」
「ヴァルツ様の言う通りですわ!」
おそらくラディ殿下が私に対して無茶をしないように、と部屋に残ってくれていた医官のヴァルツとレイナだった。状況を理解しきれていない私よりも怒りが露わだ。
「そもそも私が進言いたしましたのは、医療への協力です!何も殿下の愛妾にしなくても……」
「そうですわ!女性の尊厳を何だと思っているのですか!?」
ラディ殿下はいたって冷静で、悪びれもしなかった。
「その上で、だ。今現在、フロレンティ姫は捕虜と言う形だ。捕虜に医療の協力をさせることは、他のお歴々や兄上が黙っていまい。私が気に入ったことにすれば、私の一存であれこれできるのだ。これ以上合理的なことはあるまい」
問いかけの形すらとっていない、断言する物言いだった。この国の状況もよくわかっていないけれど、ラディ殿下の言い分は正しいらしい。レイナはまだ怒っているようだったが、ヴァルツはその様子も見せなくなってしまった。二人とも黙り込む。
「ティ様をお守りするためなのですね?」
レイナは確認するようにそう言い、ラディ殿下が頷くと、仕方ないというように怒りを収めた。