(15)
レイナの長いお説教を思い出しているうちに、ラディ殿下が部屋に入ってきた。
今日は余裕があるので、ベッドからは出て、教わったばかりの礼をして出迎える。ラディ殿下はわたしを見て目を細めたけれど、特に何かを言うわけではなかった。
今回は私も椅子に座り、姿勢を正す。ラディ殿下は姿勢が悪いわけでもないのにくつろいでいるように見えた。私があの域に到達するまでに、どれくらいかかるだろうか。そんなことを考えつつも、聞きたいことを意識してラディ殿下を見つめた。
「さて、昨日私が言ったことは考えたか?」
「はい……、その上で、聞きたいことがあります」
私がそう言うと、ラディ殿下は、おや、と言わんばかりに片眉を上げた。どこか楽しそうに見えた。
「ふぅん……。言ってみろ」
ラディ殿下の言葉に背を押される形で、勢いをつけて言葉を続ける。
「何故、私がこのような目に合っているのか、聞きたいです」
「と言うと?」
「具体的には、私が何者であって、何が原因で民の不満を買い、民に殺されかかっているのか、ということです」
長い言葉を言った反動で、しばらく口を閉じる。ラディ殿下は意外にもその間に口を挟まなかった。
「死にたくても死ねない覚悟、と言うものが何なのか、私にはわかりません。分からないから、判断する材料が欲しいのです」
伝えたいことはこれだった。言い切って、言い終わったことを示すようにラディ殿下の目をひたと見つめた。
「……、まあ、確かに、あなたの状況から察するにあなたは何も知らない。知らないままに流されるのならそれまでと思っていたが、あなたはそうではないようだな」
ここで一度言葉を切り、続ける。
「気に入った。良かろう、ヴァルツの進言もあることだし、あなたに価値があると認めよう」
ラディ殿下はそう言うと微笑んだ。初めて見るそれは、私の心を強く揺さぶった。微かな痛みが胸に走る。けれど、そんなことを気にする余裕はなかった。