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翌日、自然に目覚めた私は、枕もとの硬い感触にはっきりと意識を持った。じわり、と喜びがよみがえる。ラディ殿下は読書の許可をあっさり出し、レイナがたくさんの本を持ってきてくれたのだ。そのうちの一つを読みながら、昨日は寝てしまったらしい。
自覚はなかったが、暇なだけの日々はそれなりに不満があったらしい。今は幸せな気分だった。そう感じられることに、また幸せを感じる。
けれど、浮かれてばかりもいられない。今日はラディ殿下に、覚悟を決めるために必要なことを聞かなければならない。
気合を入れるために、少しだけ運動をした。そのあと、ラディ殿下を迎えるために着替えると、先触れが訪れた。レイナは、またお化粧ができませんでした、と文句を言った。すべて前回と同じだ。
私には着替えることもお化粧をすることの意味も、お化粧自体が何なのかもよくわかっていないのだけれど、レイナの様子から、非常識なのだろうな、とは思った。けれど、ラディ殿下も案外常識を分かっていて破る性質のようだ。
前回、ラディ殿下と話し始める前、レイナは果敢にもラディ殿下に、もっと身だしなみを整える時間をください、と意見していた。ラディ殿下はそれを鼻で笑う勢いで否定したのだ。
「化粧をして隠さなければならないほどの、大きな傷跡などがあるわけではないのだから、出かけるならともかく、私に会うくらいで化粧は必要ないだろう」
こういって、レイナの意見は受け入れられなかった。今回もそう言うことなのだろう。お化粧をすることに意味を感じない私としては、レイナが身分差などの危険を冒して意見することもないと思う。
レイナの意見はこうだ。
「お化粧とは女性の武装なのです!殿方の鎧や兜と同じです。確かに、ラディ殿下に武装する必要はあまりありませんが、武装を常に心がけることは大切です。それに、お化粧は武装という側面だけでなく、より良く自分を見せることから、見苦しい自分を見せないという礼儀の一つでもあるのです。ですから、女性はお化粧をするのです。しないことを恥ずかしく思え、とまでは言いませんが、女性としての常識です。お化粧をしないせいで常識外れだなどと余計な火種や厄介ごとの元を招くこともあるのです。しないという選択をするときは、やむを得ない場合を除いて、しっかり考え抜いたうえでするのですよ」