(12)
ラディ殿下の訪問から、食事を挟んで夕方。ヴァルツは他の仕事に戻り、レイナは私の部屋を軽く整えた後、必要なものを取りに出ていった。一人の時間になって、初めてラディ殿下の言葉の意味を深く考えられる。
ラディ殿下のおっしゃっていたことは、初めて聞くことばかりでそれをかみ砕くのにも時間が掛かった。納得いかないことも多くあるけれど、私の命がラディ殿下の手の中ということは確かなようだ。
その上で、ということだろう。ラディ殿下は死なない代わりに死ねない覚悟を持てと言っている。
私は、だんだん腹が立ってくるのを感じていた。なぜ、私がこんな目に合っているのか。それを納得してからでないと、ラディ殿下の提案を聞くことさえしたくない。
こうして腹が決まると、あとは待つだけだった。
そして、待つ間と言うのは案外そわそわして落ち着かないものだということも初めて知った。
「ただいま戻りました」
「……おかえりなさい、レイナ」
大きな花瓶をかかえてレイナが戻ってきた。今まで寂しかった明り取りの窓の下に丁寧に置くと、レイナは一息ついた。腰に手を当てて、顔を上向けて軽く伸びをする。その様子が何だかくすぐったくて、思わず笑ってしまった。
「もぅ、なんですか、ティ様。笑うのは失礼ですよ?」
「ごめんなさい……。なんだか、胸が温かくなる気がして」
そう言うと、レイナはふわりとほほ笑んだ。そうなのですね、と。
「ですが、あまり他の人にはそういうことをしてはいけませんよ」
「はい……。そういうこと、というと?」
レイナは考え込むように小首をかしげた。
「そうですね……。いきなり笑うことはもちろんですが、親しくない方相手に親愛のしぐさや挨拶をすると、大概の方は驚かれます。驚いた人間と言うのは、半分くらいは怒ってしまうものです。だからまずは丁寧に驚かせず適度な距離感をもって、だんだん親しくなってから親愛のしぐさや挨拶をするといいと思います」
「ありがとう」
レイナは私の会話や人との接し方の教師でもあるので、こうやって丁寧に教えてくれる。レイナはわかりやすく簡単に説明してくれるのでとてもありがたい。