(10)
「それで、教育係云々は置いておいてだ。先ほど言った提案を聞いてもらう」
「……、提案、何の、ですか?」
ようやく口をはさめた。ラディ殿下は表情を得意そうにして、よく聞いた、と言った。
「まず、あなたの現状はわかっているか?」
「……」
そう言えば何の説明も受けていない。ヴァルツは医官だからかそういう話よりも体調を聞かれるばかりだし、レイナに至ってはレイナ自身が何も聞かされていないような気がする。
黙って首を振ると、ラディ殿下は軽くうなずいた。
「あなたの祖国は、いわゆるクーデターによって王政が壊滅し、それに便乗した私が姫であるあなたを連行と言う形でこの国の城に置いている」
「はい」
「現在、あなたは祖国の民たちからは殺されそうなほど恨みを買っているし、わが国、ひいては私にもよく思われてはいない。私があなたをクーデターの中心人物に引き渡したりしないのは、偏に私自身があなたの祖国に恨みがあるからだ。それを晴らすためにあなたを利用したいと思っている」
ここまで一息に言い切り、ラディ殿下は息を整えた。彼は、どうやら怒っているときにとても迫力が増すらしい。気迫とともに迫りくるような言葉たちに、私の胸は引きつるような痛みを訴えてきたが、まだ耐えられる。私は、この人の話を聞かなくてはならないと思っていた。私は、何も知らないから。
「クーデターのこともあるし、手っ取り早いのは死刑にでも処すことだ。けれど、あなたには無知と言う情状酌量の余地があることも確かだし、また、他にも価値がある。殺すのはもったいない」
彼のあけすけな言葉に感情が追い付かない。いつの間にか胸の痛みすら何処かへ消えてしまった。
「で、だ。ここから先が提案だ」
ラディ殿下は、いっそにらむと言っていいほど真剣に私を見つめた。
「この提案を聞く前に、もう一つ、話さなければならないことがある。聞けば、いっそ死にたいと思うかもしれない。それでもあなたの一存で死ぬことはできないが、それでも聞く覚悟はあるか?」
私は、その言葉を必死にかみ砕かなければならなかった。