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運命破壊の神手使い  作者: in
3/3

戦闘、第二ラウンド

「……で、これは何なんだよ?」

「決まってるでしょ、カモフラージュよ」

 二人は幻影の神手使いに襲われた場所を始発に、学校の周りを“ピエロの格好で”巡回していた。

「これじゃあ俺達だって分かんねえだろ?」

「あんまりはっきりバレると相手に先手を打たれる可能性があるわ。少し疑惑を抱かせて、「ま、まさかっ!」ってなるのがベストな形」

 二人とも丁寧に化粧までしているので、たとえ顔がバレていても、すぐに気付かれることはないだろう。

「こんなことさせるために丸一日ジャグリングの練習に費やした訳じゃあないよな?」

「まあ、覚えておいて損はないんじゃない? ナイフさばきも少しは様になってきたし」

 作戦決行から三日が過ぎ、コウは一日ごとに技能を叩き込まれていた。一日目は基本的な体術。二日目はナイフを使った格闘術。挙句の果てに三日目はジャグリングだ。

(一日で上達するようなものじゃないと思うんだけどな……)

「で、どう? それっぽい人は見つけた?」

「いや、まだっていうか……」

 コウはキョロキョロと首を動かす。

「どうしたの? 怪しい人でも――」

「俺たち」

「――は?」

「いや、だから……俺たち、メッチャ怪しまれてる」

 言われてサチも辺りを見渡す。確かに、道行く人がこちらを見てはクスクス笑ったり、素知らぬフリをしたり、写真を撮ったりしている。

「これじゃあ分からねぇよ。しいて言うなら皆注目してる」

「作戦失敗かしらね……」

 取り敢えず人目の付かない路地裏に駆け込み、ピエロの衣装を脱ぐ。

「はぁ……もっと地道にやるべきじゃないのか? お前の元患者に頼めば、理由を聞かずに力を貸してくれるだろ?」

 サチは今までに何百人という人間を救ってきて、その中にはサチに心酔しているものも少なくない。

「下手したら殺されるわ。そんなことのために私が助けた命を使ってほしくない」

 サチにはサチなりのポリシーやプライドがある。そして、それを踏みにじる権利はコウにはない。

「分かった。地道に行こう」

 コウが満面の笑みで承諾すると、サチも照れ臭そうに笑う。だが、そこに邪魔が入る。

「やあ、久しぶりだね。元気だった?」

 カツカツと音を立てて暗い路地をニコニコと歩いてくる“友人”。

「……サチ見つけた」

「ええ、まさかノコノコ現れるなんて思ってなかったわ」

「それにしても驚きだな〜〜まだコウが生きてるなんて、お隣の彼女が治療系の《神手》なのかな?」

(〜〜ヤバい!)

 何がヤバいかというと、いきなりサチの能力がバレた。それだけでなく、元々この作戦は先手を打つ為に立てたものだ。それなのに、結局先手を打たれた。作戦の根幹が崩され、真っ向勝負しかなくなった。

「サチ、どうする?」

「……まだ数の有利は揺らいでないわ。このままここで押し切るわよ!」

 サチの指示に従い、二人とも懐からサバイバルナイフを取り出す。ナイフを使った戦闘術を教わったのはこのためだ。街中で振り回せる武器は限られる。剣道を学んでも、結局のところ、剣がなければ役に立たない。だが、ナイフなら街中で持っていても目立たないし、警察に見つかってもある程度の言い訳は聞く。

「へぇ、対策済みか……よほど俺が憎かったのかな?」

「正直、実感がないから恨みもそこまでないんだけど……取り敢えず、連れがお前の《神手》を欲しがってるんでね。命までは取らないが、《神手》は貰うぜ」

 そう言うとコウは構える。足を広めに開いて、腰を低くし、ナイフを胸の位置に構える。瞬発力を損なわずに初撃に入れる特攻型の構えだ。

 対して、サチは足を肩幅に開き、ナイフを片手で軽く持って中腰で構える。汎用性が高く、あらゆる状況に対応できる後手を前提とした構えだ。

 二人が構えて戦闘態勢に入る中、幻影の神手使いはフラフラとした足取りでゆっくりと二人へ近づく。口には薄笑いを浮かべ、戦闘の意思が感じられないが、まるで自身の勝利を確信しているかのようだ。

(こいつ……まさか!)

 コウが一つの可能性に思い至るが、その瞬間、まるで見計らったように幻影の神手使いが走り出す。

「――クソッ!」

 慌ててコウが迎え撃つ。

――ドスッ!

 コウのナイフが、前回とは真逆に幻影の神手使いの腹部に突き刺さる――が、ナイフが刺さった瞬間、まるで煙の様に幻影の神手使いの姿が消える。

(やはり……人間味がないと思ったら幻影か。こういう時本体がとる行動は――)

 コウは予備動作なく向き直ると、サチに向かってナイフを突き立てる。

「ちょっ――裏切るつもり!?」

 サチが慌てるが、コウのナイフはサチをギリギリで躱して“後ろの壁”に突き刺さる。

「な――何よ! 遊んでいる暇は――」

「離れろ!」

 コウがサチの肩を抱き寄せて壁から離す。すると、壁は煙と血を出して、人型に変わった。

「な……何で分かった?」

 血を流して腹部を押さえながら幻影の神手使いが問う。

「“俺たちの後ろに壁なんてなかった”だろ?」

 コウたちが居たのは路地だ。道である以上行き止まりはなかった。幻影の神手使いはサチの後ろに壁の幻影を作り、その中に潜んでいたのだ。普通はその幻影すら信じ込むために気付かないが、一度痛い目を見ているコウは感覚で看破した。

「……これで終わりだと思うなあぁぁぁあああ!!」

 またしてもコウの姿が煙に包まれて掻き消える。

「また幻影か……?」

「コウ、背中合わせになってお互いの死角を補うわよ」

 サチの作戦通りに背中を合わせ、お互いにお互いの死角を見張る。

(でも、相手は幻影で視覚を操作できるんだから、あんまり意味ないんじゃ……)

 コウはそう思ったが、もう遅い。ここで離れては相手の思うつぼだ。幻影の神手使いが幻影を解いて襲い掛かってくる瞬間をカウンターで狙うしかなかった。

「……」

「……」

 だが、いつまでたっても反撃がない。

「動かないな」

「気を抜くと殺られるわよ」

 二人はお互いの呼吸音すら邪魔になるほどに全神経を集中する。視覚だけでなく、嗅覚、聴覚も総動員して第六感にでも目覚めそうな勢いで神経を削り続ける。

「……」

「……もしかして、逃げた?」

 幻影の神手使いは何も、「今ここで決着をつける」とは言っていなかった。戦闘向きではない上、負傷していたのなら、退いていたとしてもおかしくはない。

「はぁ……想像力D−ね……」

「いいや、むしろSだと思うぞ。ただ、対応力がEだっただけだ」

「励ましになってない」

 こうして、コウたちと幻影の神手使いの第二ラウンドは静かに幕を閉じた。


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