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PN  作者: 上口小太
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アルテプラーゼ

第1指定都市シトクロムP450─2C9地区


スカイボードを旧装備と馬鹿にする人間は多いが、ことアルテプラーゼに至っては、スカイボードはこの上ないAPAの連携装備だと思っていた。

アクション・ポテンシャル・アンプリファイア、通称APA。体内に流れる電気を装備に接続するための兵器だ。

1cm程の正方形のチップが埋め込まれているグローブ型やバンド型のそれを直接身につけ、専用の装備に接続して使う。

アルテプラーゼの愛用するスカイボードは、親友曰く『空飛ぶスケートボード』らしい。


2C9地区の南外れ、2E1地区と隣り合わせのピロールは、高層とまではいかない程度のたかさのマンションやビルがちらほらと立ってるゴーストタウンだった。

人が住んでいればそれなりに栄えていただろうその街は、とうの昔に切れてしまった電線をぶら下げる古びた鉄柱や、好き放題にコンクリートの割れ目から伸びる雑草、そして風に舞う砂埃で、昔の街の面影など全くない。

壁が崩れ放題の一軒家は外から中が丸見えだったが、雨風に野ざらしになっているせいか、床は所々に穴が空き、壁は黒ずんでいる。

腐敗に骨組みが耐えられなくなったのであろうビルは横に倒れて、そこに建っていた平家を潰していた。

視界に入る建物の窓はほぼ全て割れており、道路にまでガラスの破片が散らばっている。おそらく風で飛んできたのだ。四角くぽっかり空いた窓の向こうに見える破れたカーテンが、いっそう不気味さを引き立てている。


スカイボードに乗ったアルテプラーゼは、生命を一切感じさせない廃墟を風のように通り抜けた。

怖かった。

旧人類がここで生活していたという想像が、2C9地区の中心部であるピペリジンで育ったアルテプラーゼにはどうしてもできなかった。

ピペリジンを抜きにしても、息が詰まりそうなほどに、ここピロールは死の街だ。


キュン、とアルテプラーゼの数センチ先に光の弾が落ち、地面を焦がした。

銃撃だ。

その一撃を皮切りに、今度は無数の光弾がアルテプラーゼを襲った。

降り注ぐ光の雨の合間を掻い潜りながら、アルテプラーゼはその向こうの鉄筋コンクリートの真下まで走り、壁に平行にボードの裏と体を向けて急上昇する。

壁スレスレを重力に反して走り抜けるのは気持ちがいい。

今のようにハイスピードの時は、特に。


21階のビルは旧人類の残した遺物だ。例に漏れず、ろくに手入れもされずに何百年と日に焼けた表面は、大きな亀裂が何箇所にも入っていて、いつ足元が崩れるか分かったもんじゃない。

尤も、浮いているアルテプラーゼにしてみれば崩れてくれたほうがありがたいのだが。


銃弾を抜け、屋上を見下ろす位置に陣取ると、相手の攻撃が一瞬止んだ。

アルテプラーゼはざっと辺りを見渡す。待ち構えていた敵兵は全部で5人だった。

近銃兵、遠銃兵、遠銃兵、剣兵、それと鎧を纏ったやつはおそらく指揮官だろう。

「撃ち落とせ!」

「当たりません!」

当たるわけないだろ!

アルテプラーゼは心の中でほくそ笑んだ。

スカイボードは弾速には劣っても、1度撃たれたら方向を変えられない弾と違って、自由に動くことが出来る。

しかも乗っているのは地区一のスカイボード乗り手であるアルテプラーゼだ、当たる理由はない。

地区一といっても、旧装備と呼ばれるスカイボードに乗って戦場を駆けるのは彼くらいしかいないのだが。


アルテプラーゼはぺろりと下唇を舐めて、手に握った剣を構えた。

ニホントウと言うモデルらしいそれは、太陽の光を反射させて銀色に煌めく。

「旧型だ!避けられても攻撃は──」

同化するために灰色の帽子を深めに被った遠銃兵の言葉はそこで途切れ、頭から崩れ落ちた。

コンクリートに血だまりが広がる。

一瞬のうちに仲間を殺られた敵兵部隊は再度いっせいに射撃を始めたが、それより先にアルテプラーゼは数メートル上空に浮上し、黒く光る冷徹な目で彼らを見下ろした。

APAからの電力を上げ、速度を上げる。

向かってくる光弾を左右に避けながら、器用に刀を振りかざし、まず手前にいた近銃兵の心臓を刺し貫いた。

抜く瞬間に吹き出す返り血を避けず、振り返り背後の敵の腹を横に割いた。

今切ったのは遠銃兵だ。残る敵は──…。

膝から順に倒れる敵兵の後から振り下ろされた光剣に、アルテプラーゼは大袈裟に距離を開けた。

「逃げるのかっ!」

仲間を次々っと殺されて余程頭に来ているのか、血走った目で光る剣を構えた兵士は怒鳴り声をあげた。

「俺の剣でアンタの剣に太刀打ちできるわけないだろ」

努めて冷静に、アルテプラーゼは刀にかかった返り血を振り落とした。

剣筋のことを言った訳では無い。

鋼で造ったアルテプラーゼの刀では、電気を凝縮した剣に勝てないのだ。

一度受けただけでも鋼は高熱に耐えられず溶けてしまう。


APAの新型連携装備は、APAにより増幅された電気を、そのまま武器として使うために開発されたものだ。

銃型からは電気の弾が出るし、剣型は剣身が電気だ。

他にも、盾として展開させるための盾型や鎧型なども存在している。

これらに対し、アルテプラーゼの使っているスカイボードをはじめとする旧型は、電気はあくまでボードを使うための原動力であり、主役ではない。

このような装備は戦闘向きではなく、新型連携装備が生まれてからというもの、戦場で旧型連携装備を使用する人間を見かけることは少なくなった。

というのも、旧型は新型に勝てないからだ。

APAは通常一人ひとつしか扱えない。

APAは、本来体を動かすために発生する僅かな活動電位を、尋常な程に増幅する装置だ。2つ以上の使用は、増幅される電気に体がついていけず、死を招くと言われている。

旧型装備のギザギザの刃先を電気により高速回転させる剣は、結局のところ剣身が鋼なので、新型と打ち合えば熱で溶ける。

銃でいえばモーターを利用し弾数や弾速をあげたものなどがあったりしたが、新型の銃が無限の弾数をもち、自分の意思で弾速を決めれるとあれば、もはや旧型を使う理由はない。

そんなわけで、今も存在している旧型は、直接の武器としてのものではなく、乗り物や通信機などの、あくまで補助装備だった。


「俺の仕事は、ここからの狙撃を阻止することだ。銃を持たないあんたと斬り合う必要は無い。しかも俺の刀じゃ、あんたの剣とは分が悪いからね。悪いけど戦う気はないよ。」

悔しげにこちらを睨む敵兵は、しかし空中に浮くアルテプラーゼに対してどうすることも出来ず、盛大に舌打ちした。

銃兵を全て片付けた以上、ここにいる道理はない。

アルテプラーゼは腰につけた鞘に刀を収めると、まだ生きている敵に背を向け、マンションの屋上を後にした。

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