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いただきます

爪が肉に食い込む。あったかい。

 もはや色々と細々と、御託じみたことを考えている場合ではない。腹の中から湧き出る欲望に、理由など必要なかった。

 俺は全部の足を使って走り出す。4本の脚部はしっかりと地面を掴み、体を全力で走行させる。

 なんということだ、2本足で走るより、遥かに気持ちいい。人間の体は4足走行に向いていないと、どこかのサイトに書いてあった気がするが、しかし今の俺の体はその情報に逆らっていた。こんなにも走るのが気持ちいいなんて、全然知らなかった。

 快感に即されるかのように、細くとがった爪が硬い石みたいな地面に食い込む。これにより、熱で重たい体もしっかりとした体感を保つことが出来た。

 この調子なら大丈夫かも。そう思って俺は上っていた低めの樹木からジャンプし、下にある細い蛇みたいな地面に降り立つ。爪先から骨と肉に、びりりと痺れが走りちょっと痛かったが問題はない。

 着地を決めた書記官よろしく、意気込んで顔をあげた。眼前には石の樹木が乱立している。今からこれをすべて回避して、出来るだけ早く走らなければならない。

 足を動かし走り始める。障害物は確かに邪魔ではあったが、この黄色の視界ならいかなる速度の世界でも、物体の像を認識できた。

 迅速に冷静に邪魔な物を避け、獲物への距離を十分に縮める。柔らかい手の平が足音を吸収してくれるので、相手はまだ俺に気付いていない。

 脂の薫りをいよいよ身近に実感すると、欲望を満たせる期待への身震いが沸き起こってきた。そして後ろ足に、渾身の跳躍のための力を溜めた。

 意気込みのあまり、つい呼吸を乱してしまう。そこでようやく、獲物が俺の存在に気付いた。当然のことながら逃走を図ろうとするが、しかしもう遅い。

 俺は高く、高く飛ぶ。無重力の開放感の中で、自身の跳びに自画自賛したくなった。自分でいうことでもないが、言いたくなるほど見事なジャンプであった。顔面の感覚は全て、呆けた感情を浮かべている獲物へと向けられている。後ろ脚は着地に備えて、ぴしっと揃え準備万端だ。

 前足の全部の指に力を込めて、爪を長く三日月のように鋭く伸ばす。

 ついに!ついにだ!体が重力に従って、狙い通りに獲物の体に落下する。体が衝突したことによって、肉がぶるんと波打つ。

 俺は自分の爪を、薄ピンク色の柔らかそうな皮膚にぶっすりと食い込ませる。

「hiiiggg?」

 獲物が突然の痛みに、驚いて悲鳴をあげた。柔らかいと思っていた皮膚は意外にも頑丈で、伸縮性と反発性で爪を防ごうと抵抗した。しかし無駄な抵抗だ、俺は獲物を逃がさないように、拳を作る勢いで皮膚を掴む。

 伸び晒しの爪、硬質化した皮膚の塊が皮膚組織を引き裂き、角質の下に潜む真皮に到達し、皮下組織の手前で止まる。

 こうすれば逃がすことも無いし、安心して食べることができる。

 獲物がすごく五月蠅いから、さっさと食べてしまおう。

 

九九ですね。

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