明くる日の殺意は食欲に基づいて
素敵なアドバイス。
肉は油断していた。俺に気付かずある方向、ただそれだけを見つめている。何を目指しているのか、俺は知っている。だからこそ肉の行動の下らなさに、食欲を募らせた。
肉は油断している。地面に這いつくばっている姿勢から脱するために、四本の足をばたつかせている。襲いかかるのに絶好のチャンスだ、走る準備をしよう。
俺は下半身に力を込める。そこでふと、不安がよぎった。はたして今の発熱した体に、走る力が残されているだろうか。腹の内には依然、どろどろとした倦怠感が巣くっている。
こんな重たい体を、立った2本の足で走行させるのは、あまりにも心許ない。絶対に3歩ぐらいで転倒しそうだ。
だとすれば、どうしたら確実に肉の元に、出来るだけ迅速に接近できるのか。
「足2本で足りないなら、もう2本を使えばいいじゃない」
熱でぼんやりとくらむ頭でうつむく。黄色みの強い世界に、ひどく不明瞭な俺の腕が2本映った。ずいぶんと筋肉質な、違和感のある逞しい腕だった。
そこで俺はようやくひらめく。そうだ、足だけじゃ不安ならば、腕も使ってしまえばいい。
酷く馬鹿馬鹿しいアイディアかもしれないが、今の俺には非常に有用な案だと思えた。というかむしろ、これ以上ないってほどの妙案じゃないか?そういうことにしようぜ?
時間がない、俺は早速手の平を太陽、ではなく地面に押し付ける。すると地面に触れた時の、薄い皮膚を介して伝わるざらりとした感触、それが全くなかった。それどころか地に手を押し込むと、心地よい反発まで帰ってくる。はて、俺の手はこんなにも肉厚だったか。
地面に触れたまま指を曲げてみる。そしたら指先の下から微かに、硬いものが削れる音がした。爪が伸びて食い込んでいるのだ。
伸縮する鋭い爪が、さらに自信を持たせてくれる。この腕と指があったら、思いっきり全力で走行できるに違いない。
「認識は出来たかね?」
俺はもう、すっかり肉体を受け入れていた。
「それは良かった、じゃあ私からいろいろアドバイスをしてあげよう。まずは息を潜めて、出来るだけ姿勢を低くしなさい。たとえ獲物が遠方にいようとも、油断はしちゃいけないよ。一滴の油断が、あらゆる物事全てを崩壊させる力を、時々最悪の形で発揮することがあるからね。いい?絶対に気付かれないでね。ああ、あと…」
丸く黒く広がった瞳孔の奥から、何やら誰かが母親のようにしつこく忠告してきた。ような気がするがきっと気のせいだ。母さんがこんな異世界にいるわけないし、ましてや親身なアドバイスなどをしてくれることなど、絶対に有り得ない。
幻聴なんかに耳を傾けている場合ではない、急がなくては肉が逃げてしまう。
逃がしてはならない、その前に襲いかかって。
そして。
サブタイトルで変な文章を作るのにハマってきました。一応意味はあります。