目が開けばそこは黄色く良く見えて
黄色い世界。
なんだかとってもわくわくしていた。そして同時に、とても腹が減っていた。気持ちるくなる一歩手前の、胃が引き絞られるような空腹。気を抜くと腹から音が鳴ってしまいそうだ。
鼻の穴が脂の薫香を感知する。それは焼き肉屋で出てくる、商品としての肉の薫りでではなかった。それよりももっと野性的な、これ以上ないほど高級な肉の塊を、味付けせずにそのまま焼いたような匂いだった。高い肉を食べた経験などゼロに等しいが、何となくそう想像できた。要するにすごく良い匂いが、どこからか漂っていた。
薫りの正体を探るために、瞬きを繰り返して痛みに霞んでいた視界を取り戻そうとした。大きめの涙をいくつかこぼして目線を動かす。
そこには奇妙な世界が広がっていた、なんだか変な黄色味の多い色彩をしている。いよいよ頭がおかしくなったのかと自信を疑い憐れんだ。
だが割とすぐに、目新しい色合いには慣れることが出来た。自分でも軽く驚くほどの順応性が、こんな所でいきなり発揮され戸惑う。しかし薄い黄色の世界は、絶妙にしっくりと俺の脳に当てはまってくる。むしろ元の色味たっぷりの騒がしかった世界より、今の薄い世界の方がより必要な情報をクリアに集められる、そんな気がした。実際に物体への感覚は凄まじく、しかし落ち着いて認識できていた。風のわずかな動きですら、目で見ることが出来そうだ。
今の体ならどんなものだって見つけられる。たとえどんな所に隠れようとも、見逃しはしない。そんな自信がふつふつと、体の内側から湧いて脳を刺激する。
刺激に急かされて、俺は周囲を見渡す。周辺には巨大な暗い色の樹木みたいな物体が、うっすらとした規則性を以て生えていた。それらからは何の匂いもしない。硬いし美味しくないし栄養にすらならないと、誰かが溜め息をついたので無視しておく。
灰色の意志の樹木をかき分け、視点を巡らす。その間は短いものだったが、体感的にはゆっくりと長く感じられた。
そしてついに、樹木の中でもぽつりと低く、唯一生きた香りのする棒の近くに目的のものを発見した。
そこにはなんと、大きな肉の塊が落ちていた。新鮮でよい薫りのする、美味しそうな肉だ。
肉はその悩ましい体を、無防備に土の香りのしない、無味無臭な地面に横たえている。その無気力な姿は、まな板に載せられた生のステーキに似ていた。なんて無防備なんだろう。
足が四本生えている肉は、俺に全く気付く様子もなくとある方向を一心に見つめていた。
肉の視線の方向を俺は知っていた、しかし今は関係ない、まったく無意味なことだ。
アラジステム中心街にある時計塔は、保護区内では珍しく木製の建築材を使用しています。時計塔再建造の際、出来るだけ元の建築様式を再現しようとしたのです。