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ウキウキしちゃうねその鱗

鱗が少年の邪魔をする。

 体はまさに石のように、いや、水の中の白金の方が近いかもしれない。とにかくずっしりと重かった。

 もっと体感的に、肉体に沿った例え方をすれば、季節外れのインフルエンザに罹患してしまった幼子の体内環境、それに匹敵する気怠さが体中にのしかかっていた。なんとかして動作させようと力を込めると、筋肉が発熱してまるで炎天下のバイクみたいになる。熱は筋肉に付着し、骨が溶ける錯覚が襲う。ありとあらゆる関節が、厄介な分泌物によってずくずくと痛む。

 体中が、体を形作るすべての細胞が、痛苦の伴う異物感を訴えていた。骨が強引に伸ばされる、あるはずのない成長痛に骨が軋み、肉が内側からみりみりと音をたてて伸ばされる、気がした。

 息ができない。全身が痛みで硬直して、呼吸が上手くできなくなる。酸素を求めて、肩を大きく上下させる。このままじゃ窒息してしまう、呼吸をしなくては。

 俺は深く息を吸い、そして吐いた、ものすごく吐いた。滝のような空気が、恐ろしいまでの勢いで口から排出される。同時に大粒の唾液が、廃墟の雨だれのごとき勢いでぼたぼたと顎を伝って地面に落ちる。 およそ人間の体内から放出される量ではない水分に、俺は眩暈を覚えた。体の軸が歪み、地面に倒れそうになるので、手足に力を込めてバランスとろうとする。

 だがそれすらも思うようにいかなかった。体中に何か、硬い板みたいなものがびっしりとへばりついている。それは魚の鱗みたいに纏わりつき、全ての動作をわずらわしく妨害していた。

 何だよこれ、クッソ邪魔くせえ。そう思って俺は、無駄だと思いながらも精いっぱいの抵抗として、体中に力を込めた。熱は辛いが、鱗の不快感よりは幾分かマシだ。

 すると以外にも体中の筋肉が、嵐の水面のように波打ったのを自覚する。はて、引きこもり生活を送り続けてきた俺の、一体どこにこんな筋肉が隠されていたのだろうか。

 筋肉組織は皮膚を隆起させて、鱗を少しずつ剥がしてゆく。

 誰かが悲鳴をあげた。

「装甲……!…剥離しました……」

 それは女の子の声のアナウンスだった、どこか遠い場所で聞こえている気がする。聞き覚えのある響きだったが、今はどうでも良い。

「いきなり?どうしてだ!何が起こった!」

 もう一つ若い、子供みたいに高い声が聞こえてくる。

「操縦は!操縦はきかないのか?」

 声はその二つしかないわけではなく、まだ他にも存在していることがうっすらと分かる。だがほかの声は音程が低くて、今の耳では聞き取れそうにない。

 でも、誰が何を話していようが、もうどうでも良かった。考えるのも面倒くさい。

 全てがどうでもいいはずなのに、今は生きているだけで心が浮き立つ気分だった。

日々目から鱗です。

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