あの鐘は誰にも頼らずに鳴る
少年の視線が駆け巡る。
鐘の音は薄気味悪く、間延びして鳴り続けている。俺は危機的な状況を忘れて、音の正体を探ろうとした。隊員達の誰かに聞く手もあるが、どう考えてもみんな忙しいので、それは実行しない。
音の正体を独自に探るために、俯き気味だった視界を動かす。そして後悔した、ついうっかり怪物をまともに見てしまったのだ。
怪物の体は、遠く離れたところにあった。ウサミとムクラの功労によって、兵器は怪物から距離を置いて都市の、少し開けた場所にある中型ビルの屋上に非難している。先ほど猛烈な勢いで突進してきた怪物は、その醜い四肢を都市の、いわゆる中心街が始まる地点に食い込ませていた。
怪物の様子を見てふと気づく。怪物の顔面、豚の肉をかぶった頭蓋骨もせわしなく動いていたのだ。その動きには妖獣を食らった時の、一直線で粘着質な攻撃意志は含まれていない。どういうわけか、俺はあの怪物に対して、気持ち悪い親近感を感じていた。何だろうこの、見ず知らずの他人に親しくされたときみたいな、絶妙なむかつきは。
「==@」
謎は一瞬にして溶けた。というのも、怪物の頭部がある方向を見て、そのまま固定されたのだ。俺は興味本位で怪物の、落ち窪んだ眼が刺す方向を追う。
「あれは…」
怪物の視線は、地下都市の高層ビル群の方角へ走っていた。そして俺も視覚と聴覚を通じて、怪物と同じ情報を得る。
そこには時計塔があった。灰色と黒色の、金属的な建築物の海に、孤島のようにそびえたつ時計塔。街の中心部に建つ、異物じみた建造物。
ここでさらに気付いたのだが、今鳴り響いている鐘の音はどうやら、その時計塔から発せられているらしい。耳を澄ましてより正確に説明するなら、時計塔から発せられる鐘の音を、おそらく集音器みたいな仕組みを使い、スピーカーを使って町中に届けていたのだ。小高いビルの上から、多少なりともおっちついて街を観察してみて、そんなことを何となく予想した。
空がない地下に住む人々には、日の傾きを見て時間を図ることは出来ない。ちゃんとした時計はあるが、それでも感覚的に時を知覚する術が、出来れば会った方が生活し易い。この、いまだ鳴り続けている鐘の音は、そういった役割があるのかもしれない。
だとするなら、このよくわかんない違和感のある音も、バルエイスの住人にとっては朝のニュース星占いレベルに日常の音で、別段気にするものでもないのだ。だからこそ、誰もわざわざ鐘の音に耳を傾けはしない。
ただし俺と、そして怪物を除いて。
時報の、あの機械的な音を聞くと、ぞわっとします。