称えよテクニシャン共を
男たちのテクニックがうなる。
硬く頑丈なタイヤが、地面をすり潰す勢いで回転する。回転音と共に、べったりと張り付いていた怪物の肉体が離れ、景色の流れに合わせて小さくなる。その様子を俺は、寂しさに似た安堵を浮かべて眺めていた。
「よし!」ウサミが嬉しそうに、短く叫ぶ。その場しのぎの作戦は、どうやら無事に成功したらしい。
「ぶはあー…怖かった…」ムクラがしぼむような深呼吸を吐く。
臨時で命に係わる危険な作業に呼ばれてしまった優秀な青年の、迅速すぎる攻撃魔法。そして内心嫌々この仕事に望む、およそ使命感という高尚な感情を全く感じさせない中年男性の、巧みな兵器操縦テクニック。
俺一人を除いた男性陣の、類稀なる技術によって危機的状況はとりあえず脱することが出来た。
「ナメクジのお嬢さん、機体の損傷具合はどうかね?」
ウサミがソルトに質問をする。
「あ、えっと、装甲が生命体の牙によって多数損傷していますが、稼働に支障はきたさないと考えられます」
ソルトが多少落ち着きを欠いた声で報告した。
「一応神経部にアクセスして、もっと詳しく検査してみます。それにしても、お二方の機転は素晴らしいものでした」
「い、いやあ、それほどでも…」
女性に褒められて純粋に気分を浮かせるムクラに反して、ウサミは淡々と仕事を続ける。
「さて隊長さん」
ずっと黙っていたルドルフに語りかけ、
「これから如何いたしましょうか?」
あえてソルトの口調を真似して、隊長に指示を乞うた。
「あ」
か細い呼吸音みたいな声が、蚊の羽音みたいに俺の耳に届く。
「えっと」
ルドルフは息を吐くこともままならないほど、感情と体を硬直させていた。俺は彼に心底同情した。今の状況、この場所から彼の表情を窺うことは出来ない。だがほぼ確実に彼は、俺と同じ顔色をしていたに違いない。
だがルドルフは俺ほど頼りない男では、決してない。素早く怪物に襲われたことへの恐怖心を抑え込むと、
「いっい、一時撤退!」
ぎこちないながらも、己の職務を果たそうとした。
「機体の損傷を確認しつつ、まずは転生者の身の安全を確保する」
「え」
予想外の指示に、俺は誰にも聞こえないほどの小声で驚いた。こんな、人の生命を脅かすほどの危険な状況で、どうして俺の安全?
結局のところ、こんな状況になってまで俺はルドルフたちの仕事を理解できていなかった。愚かさもここまで来ると、もはや救いようのない悲劇である。
♪~♪
「え?」
今度は単に邪念のない疑問が口から出た。
無数のビルな立ち並ぶ都市に、腹が立つほど不気味な鐘の音が鳴り響き始めた。
ラーメンが食べたい。