幕間 目覚ましムクラ
バルエイス内にある住宅密接区、そこでとある男が目を覚ました。
ムクラは目を覚ました。時計を見ると起床推奨時間を一時間超えていた。完璧なる寝坊である。
「やっべ・・・!」急いで飛び起きようとする、がすぐに停止した。
「別に早起きする必要なかったわ・・・」
打ち合わせの約束の時間は昼頃である。ムクラは再び布団に頭を沈めた。昨晩はろくに眠ることができなかった、何せ勤めていた会社をクビになったのだ。ムクラは小さなプログラム会社のシステム開発部に勤めていた。社長は傲慢、上司はイエスマン、同僚は怠慢なごく普通の職場だった。そんな平和な世界はある日突然、打ち切り漫画のごとく幕を下ろした。社長室に呼び出されたかと思うと、とある研究所の書類等々を渡され、「健闘を祈る!」と言い渡されたのだ。再就職先が決まっているのだから、クビという言葉を使うには誤りがあるかもしれない。しかし何の前触れもなく、社長とその他お偉いさまから、直々に真顔で職場を追い出される。そんなことがあり得るのか、日を跨いでもこの身に起きようとしていることが信じられないでいた。
「なんにせよ今この瞬間、この朝だけは、僕は自由だ」
何もしなくてもよいという自由。それはどこか甘美で、底なしの恐怖があった。その香りに体を満たしつつ、ムクラは禁断の二度寝へと思う存分耽ろうとした。
「お兄ちゃん、起きろー!」
「ごふうっ?」
至福のひと時は、腹部への圧迫攻撃によって破壊された。
「もうっいつまで寝てるの、お母さん怒ってるよ。全くいくら会社クビになったからって、自堕落になっちゃダメでしょ」
ぷりぷりと怒っているのは、ムクラの妹のカナだった。
「あれ、僕会社クビになったなんて一言も言ってない気が・・・」
「朝ごはん、もう冷めちゃったよ」兄の疑問を妹は無視した。
ふう、と大げさにため息をつくカナは上下セットのスウェットを着ていた。ムクラが着ているのと色違いのものだ。
「カナ、学校は?」
ムクラは腹をさすりながら質問する。妹は中等学校に通っていて、普段ならば部活動で朝早くから出かけているはずだった。その質問にカナは今度こそ本気で呆れた。
「何言ってるの、今日は学校お休みだよ」
「あ、そうか」
「お兄ちゃん、堕落しすぎ」
「そう兄を責めてくれるな、妹よ。僕は今禁断の自由を謳歌しているのだよ」
「何バカなこと言ってるの」
カナは大げさにため息をついて部屋から出て行った。年頃の娘が身内とはいえ男の部屋に気軽に侵入すべきではないと、口を酸っぱくして注意しているのだが、気の強い彼女は一向に聞く耳を持とうとしない。
ムクラは今度こそ目覚めるために、あおむけになって天井を見た。いつもと同じ世界、それでも昨日までとは全く違う世界のような気がした。なんの根拠もなかったが。
いよいよ登場人物が増えてきます。