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即興魔法

青年の思考が炸裂する。

 会話が弛緩しても、ムクラ本人の集中力はより高まる一方だった。壮絶なるタイピング音と並列して、発光する魔法の弾が次々と怪物の皮膚を焼いていく。髪の毛を燃やしたような匂いが、無人の都市に蔓延する。

「攻撃機構に問題はない。だが決定打にはいささか欠けている。もう少し、強力なのをぶち込みたい。…だがこんな至近距離でそんなのを…。誘爆の危険性が…」

 ムクラが手の動きを止めることなく、ぶつぶつと早口に何かを思考している。クリック音に合わせて、魔法の光が炸裂した。

「aa」

 だが、最初の一撃のように、怪物の肉を大きく抉ることは出来なかった。むしろ攻撃を重ねるほどに、怪物の体が修復しているような気がする。もしかしたら、あれは体を硬質化させることが出来るのかもしれない。だとしたら非常に厄介だ。

 ムクラが溜め息をつく。ごく自然な、疲労による溜め息をつきの後、いったんタイピングを止めると、

「ウサミさん、このままだと魔法も効かなくなる可能性があります」

 兵器の操縦をするウサミに話しかけた。

「その前にできるだけ、ダメージを与えておきたいです。もう少し、無イとの距離を開けられませんか?」

「うーん…」

 ウサミが掠れ気味に唸る。

「悪いがこちらも限界だ。これ以上作動部分に無理をさせることは出来ない。さっきから警告音が鳴り続けていて、僕の耳もおかしくなりそうなんだ」

 ウサミはあえてふざけた言い方をしたが、事実はかなり困窮している。俺の耳にも、兵器が怪獣の牙によって砕かれている音が、痛みを添えて響いてくる。

「そちらで何とか対策をしてくれないか」

「しかし…」

 ウサミの無茶ぶりに、ムクラは反論しようとした。だがその前に、

「いや、分かりました。任せてください」

即座に何かしらのアイディアを発案し、黙ってそれを実行し始める。再び手が動く。

「この距離で撃てる、安全な範囲で、出来るだけ強力なのを今」

 けたたましい音の隙間に、ムクラは思考する。そしてその場しのぎの攻撃魔法が、即興で作られた。クリック音が鳴る。魔法の砲弾が撃たれた。

「@、aaaa!」

 怪物が驚愕の悲鳴をあげた。ムクラが構築したちょっと強めの砲弾が、硬くなりかけの皮膚を再び深く大きく削ぎ取ったのだ。機械の体、そして俺の視界に緑の温かい液体が、ゲリラ豪雨の如く降り注ぐ。

「***…」

 怪物は明らかに苦しみ、悶え始めた。しつこく食い込んでいた牙が、少しだけ緩む。

「よっしゃあ!よくやった臨時君!」

 ウサミが意気込んで力を込めた。加速装置が稼働され、妖獣のタイヤが鋭い音を出して地面を蹴る。

 

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