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激しい打ち込みに肉が抉られる。
大して面白くもないおふざけを言ったところで、状況は何一つとして変化しない。怪物は兵器の体を、噛み続けていた。
ばきばきと、何かが砕かれる音が響く。音がさらに俺の痛覚を刺激する。
「くそっ、結構しつこいな」
ウサミが舌打ちをする。ここでようやく彼の、動揺を見ることができた。
「臨時さん!弾!弾打って!早く!」
かなり強くハンドルを握っているのだろう、若干疲労を滲ませている。そんな中でウサミは臨時情報処理員、つまりムクラに独断で指示を与えた。
「うえ?あっ、は、はいっ!」
ムクラがどもりながら返事をする。彼は怪物が出現してから、まともに言葉が発せなくなっていて、ずっと「やっべー激やっべー!」と不明瞭なことばかり叫んでいた。
しかしそんな混乱状態でも、彼は一言命令を下されれば切り替えることを、可能にできる柔軟さがあった。
「魔砲用弾丸、構築開始します!」
またしても謎の単語が現れた。魔法っぽい用語を、ムクラは迅速にスムーズに述べる。一体何を、構築とか言っていたが、こんな所で武器でも作る気なのか。どうやって?
俺はムクラの声が聞こえた方向へ、意識を傾ける。動揺しているからか、視点までは切り替えることは出来なかった。しかし集中だけすれば、轟音の中でも音を拾うことは可能だった。
だが聞こえてきた音の正体が、なかなか把握できない。何か、軽いものが引っ切り無しにかたかたと、叩かれているような感じの音。非常に聞き覚えのある音だ、とてつもなくなじみ深い音、この音は。
「キーボード?」
そうだあの音だ。この軽やかな雑音は、それ以外にありえない。しかしどうして、巨大怪物用の兵器にキーボード?
タイピング音は、人の指で奏でられる限界の速度で鳴り続け、数秒ほど経ったところでぴたりと止まる。
「魔砲弾、構築完了」
緊張に染まりきったムクラの声に合わせ、かちりと何かが押される。たぶんマウスの音だ。
! ! ! !
明滅が走り、炸裂音が遅れてやってくる。
「aa!aaa!」
怪物が苦しそうに呻く。集中を中断し、視界を動かすと怪物の体の一部が、ごっそりと抉られていた。薄桃色の肉から、液体が溢れだしている。
「効いてるぞ!」
ウサミが感心する。
「攻撃を続けます」
ムクラは目の前の仕事に集中し続けた。タイピング音とクリック音が、容赦なく怪物を攻撃する。
「すげえ、魔法の銃弾だ」
小規模な爆発が機体を熱し、震動させる。微かな震えの中で俺は、異世界の武器に見惚れていた。
「これはね、機械を操作して使うタイプの魔法なんだ」
早くも余裕が出てきたのか、ムクラが得意げに説明し始める。
「キーボードとマウスをクリックすることで、仮の実体を持った弾を撃ち込むんだ」
「それって…、俺の世界にあったゲームみたいだな。なんかものすごく銃を撃つ奴」
どんなジャンルだったかは思い出せない。俺は引きこもりのくせに、ゲームはからきしダメだった。
「へえ!そんなゲームがあるんだ。すごい楽しそうだね!」
ムクラが興味深そうに、声を高くした。
「やってみたいなあ…」
「今は目の前のモンステラに集中してよ」
うっかり平和な話題をしてしまったので、俺は慌てて話を止める。今はこんなことを言っている場合ではない。このままだとゲームをする前に、怪物に食われて死んでしまう。
これは紛れもなく、痛みと死を与えられる現実なのだから。セーブもロードも、ポーズ画面もない。
タイピングゲームがクリアできません。




