表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/176

出汁の種類

御出汁は何にしますか?

「ぎゃあああっ?!」

 黄ばんだ歯がずらりと覆いかぶさっている。ピンク色の肉が、ぬらぬらと生温かく輝く。ため池の水みたいな色の唾液が、ぼたぼたと頭上に降り注ぐ。

 気持ち悪い、命が脅かされるほど気持ちが悪い。俺は今、怪物に食われている。

「機体が!機体が襲われています!早急に退避を!」

 ソルトの悲鳴が、ノイズ交じりに聞こえてくる。

「操縦士!!」

 ルドルフがウサミに向けて叫んだ。

「了解!皆さん歯ァ食い縛れ!」

 ウサミが気合を入れると、機体が大きく動き始めた。彼はきっと全力でハンドルを握り、ペダルを壊す勢いで踏みしめている。俺の視界、部屋のディスプレイが目まぐるしく、横滑りに移動し始めた。

「全速後退!」

 ウサミが声に力を込める。機体にへばりついた怪獣を引き剥がすために、予備の動力を使用して妖獣を後退させているのだ。

 赤い妖獣の足に取り付けられた、金属質のタイヤが回転する。地面と摩擦することで発生する高音が、俺の鼓膜を突き刺す。

 急激な運動に驚いた関節部分の、不満げな軋みに俺は申し訳なくなる。

 妖獣は獣の名に相応しく、素晴らしい馬力を持っていた。予備電源をフルに消費し、汚らしく接近してきた怪物から、荒々しく乖離する。

 肉が擦れて破れる音がダイレクトに脳へ届いてきて、俺は眩暈を覚える。妖獣によって、怪物の肉体に新たな噴水が造られる。

 怪物から離れ、その水しぶきを眺めていると、意識が遅れて戻ってきた。

 俺たちは怪物に襲われたのだ。

 怪物はその不気味で醜く愚鈍そうな見た目に反し、驚異的な俊敏さを肉と骨に秘めていたのだ。

 強引すぎる形状で生やしている、四本の人間の手足。それを豚、もしくは猪らしく作動させて、まさに猛獣の如く猛突進してきた。

 俺は上半身に痛みを感じ始める。

「くそっ、まだ引き剥がせないのか!」

 ルドルフが歯痒そうに叫ぶ。

 妖獣の必死の退避も空しく、怪物は依然として機体にひび割れた牙を突き付けていた。

「操縦士!もっと速度をあげろ!」

「これ以上は無理ですよ」

 ルドルフの叱咤に、ウサミは淡々と答える。見事に感情が対比していた。

「すごい顎の力だな…」

 上半身、主に肩あたりの痛みが現実味を帯び始める。それはまるで、何か太いもので肉を抉られているような痛みだった。

「これだったら鰹節も丸ごと食えるんじゃないかな…」

 痛覚は意識を変な方向へ持っていく、なのでこんな場違いな台詞を吐いてしまう。

「いやいや、こんなのは序の口だよ」

 聞かれたくないことに限って、変な奴に聞かれてるものなのか。ウサミが不適に不敵な笑みを発した。

「それに僕はどっちかっていうと、煮干しの方が好きだ」

 なんの話だコンチクショウ。一瞬苛立つも、目の前の危機が感情をすべて吹き飛ばす。

「なんて、言ってる場合じゃなかった」

 ウサミが呼吸を短く、深くする。

「現実逃避は後でしましょう」

 俺はウサミに、そして自分に言い聞かせた。

 怪物の牙がさらに食い込む。痛みを堪えるために、俺は歯を食い縛った。俺も今なら鰹節を食えるかもしれない。

私は味の素派です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ